憲法について、山本はどのような考え方の持ち主なのでしょうか。昨年8月7日の日本ジャーナリスト協会主催の記者会見では、このようなことを語っています。
「一言一句変えてはならないとは思っていません。時期は考えなければならない。少なくとも、この国に生きる多くの人が、政治や憲法に関して、居酒屋やレストランなど好きな場所で好きな時に話をしても浮かないという社会的空気にならなければ憲法改正はできない。10年後? 何年後? それは分かりません」
変えてはならないとは思っていないと主張しながら、「10年後」などと言い出すあたりは、護憲派といって差し支えないでしょう。憲法改正を否定しない姿勢を示しながら、憲法改正論議を本格的に行おうとしない立憲民主党の枝野幸男代表と似たり寄ったりです。こんなことも述べています。
「れいわ新選組的に、憲法を変えなければいけないとするならばどこなのか。憲法9条です。2015年の安保法。これが原因です。憲法を飛び越えた立法がされた。解釈という力技だけで行われた。二度とそのような詐欺的な扱いができないような状況にする必要がある。たとえば何か。(自衛隊は)専守防衛に徹底することであったり、日本の領土、領域からは出ないということを明記したりとか。そういった9条の改正が将来的に必要であろうと思っています」
これは山本の持論で、彼の著作『僕にもできた! 国会議員』(筑摩書房)にも同様のことが書かれています。同書には、「安倍さん的な改憲になってしまうと、他の国々と同じように集団的自衛権もフルでできるようになってしまう。となると、アメリカが行う世界戦略には日本もお供いたしますとなってしまう。イラク戦争を速攻で支持したようなことが、全行程において自衛隊を伴う動きになっていくということです」と書いています。このロジックは、これまた共産党とうり2つです。
山本は、国会質問をまとめた『みんなが聞きたい 安倍総理への質問』(集英社インターナショナル)という本も出しています。
同書によると、平成27年7月29日に参院で行われた「平和安全法制に関する特別委員会」で、当時「生活の党と山本太郎となかまたち」共同代表だった山本は、「日本の領域に対する急迫不正の侵害に対しましては、従来どおり個別的自衛権と日米安保で対処します」と発言しています。日米安保廃棄と言っている共産党とは異なり、日米安保は認めているようです。
同時に、真意を測りかねる発言をしています。「尖閣、小笠原、東シナ海の中国漁船等については、海上保安庁の能力を一段と高め、自衛隊はそれをサポートすべきです」としたうえで、「中国に国際法に違反するような行為があったとするならば、APECやG7などとも協力して経済制裁をすることとし、そのことを抑止力とすべきではないでしょうか」と語っているのです。
構成メンバーに中国があり、「メンバーを法的に拘束しない、緩やかな政府間協力の枠組み」という性格をもつAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に、どんな抑止力が期待できるというのでしょうか。
「竹島あげる」発言の真意
話は変わりまして、日本固有の領土である竹島をめぐる山本の考え方も放置するわけにはいきません。
著書『山本太郎 闘いの原点 ひとり舞台』(ちくま文庫)のなかで、「『竹島は韓国にあげたらよい』と僕が言ったとされる発言も、事実と違っていて、ただ言葉じりを取られて全然違うふうに伝わってしまったんですけど……」という件があります。
それでは、真意はどこにあったのでしょうか。「言ったとされる」と書いていますが、言ったのでしょうか、言っていないのでしょうか。検証したいと思います。
事実関係として、山本は平成20年7月20日放送の読売テレビの番組「たかじんのそこまで言って委員会」で、竹島について「悪い象徴である島であるんだったら、それを清算する意味でもあげたらいいじゃないかと思うわけですけど」と発言しています。
このとき、同じく出演していた政治評論家の故三宅久之が「あなたと同じ意見をかつて朝日新聞の論説主幹が書いて、非常にバッシングを受けたことがある」と語り、評論家の宮崎哲弥が「領土問題は1カ所で譲ってしまうと、たとえば下手すると韓国は対馬まで自分の領土だと言い出しかねない。だから原則は譲ってはいけない」と忠告しています。
発言は物議を醸し、「ネット右翼」と呼ばれる人たちから批判を受けたそうです。23年10月20日のインターネット番組のニコニコ生放送「田原総一朗 談論爆発!」に出演した際、真意をこう語っています。
「本当に国土を守るという意識であれば、もっと本気でやらないとだめでしょ。日本は『固有の領土です』と言うだけだ。ネット右翼といわれる人たちがいる。家でごろごろしている暇があって僕に竹島の問題のことを言うんだったら、漁船に乗ってすぐ行ってくれ。アクションを起こしてくれと思う」
しかも続けて、「本当はいま戦争なんてしてもうまみはないんだから、共同管理が一番いいと思う」と語っているのです。
しかし、なぜ共同管理をしなければならないのでしょうか。韓国が不法占拠している現実に照らして、譲歩すべきだという考えなのでしょうか。国家主権というものに対する問題意識の低さを感じます。
ちなみに、日本維新の会の創設者で元大阪市長の橋下徹も、かつて共同管理を主張したことがあります。24年9月に大阪市内で行われた討論会で、「どうやって共同管理に持ち込むかという路線に舵を切らなければならない」と発言しています。橋下は右のポピュリスト、山本は左のポピュリストとよく言われます。なぜ、ポピュリストと呼ばれる人たちは「共同管理」論に流れるのでしょうか。不思議です。
日韓関係をめぐっては、昨年8月1日のJR新宿駅西口前での街頭演説で「日韓関係、これが悪化して喜ぶのは誰だってことですよ。『なめられてたまるか』『ぶっつぶしてやれ』みたいな小学校高学年くらいの考え方はやめましょうってことなんです。大人になろうぜってことなんですよ」などと威勢よく語っています。はい。それは韓国に言ってください。