「夢」を売る山本太郎
れいわ新選組の山本太郎代表が、昨年9月からスタートさせた全国行脚は大盛況だったようです。昨年7月の参院選比例代表で、比例候補のうち最多の約99万票を獲得した、その勢いはまだ続いているようです。なぜ、彼にそんなに支持が集まるのでしょうか。
一つは彼の政策にあります。消費税を廃止するとともに、新規国債を発行して財源を確保し、財政出動を強力に行い、バラマキ政策を推し進める。これで国家が破綻しないのなら、バラ色の政策と言える。要は、「夢」を売り続けているというわけです。
また、現代の「貧困問題」の主人公となっている、バブル崩壊で就職難に遭遇した、現在30代半ば~40代半ばの就職氷河期世代に焦点を当て、この世代に怒りの火を焚き付けて、ムーブメントを起こすことに成功したことも大きい。
永田町全体を敵に回し、反権力の象徴というポジションを確立しつつあることも無視できません。政府・与党の政策に反発し、野党の国会運営に対し「生ぬるい」といわんばかり噛みつく。ヒールに徹したその演技力は、さすが元俳優だけあります。
そんな彼が権力を握ったとき、こんなはずではなかったと有権者が落胆しないためにも、いまからしっかり、政策や主張の中身を吟味しておく必要があります。
『ニューズウィーク日本版』(2019年11月5日号)の表紙にもなり、ホットな存在でい続けているこの人物。ここは冷静に、彼が今軸足を置いている経済政策だけでなく、憲法や外交など他の分野も含めてファクトチェックをしていきましょう。
「生活が苦しい」は本当か
山本が街頭演説をする際、必ずといってよいほど用意するのがスライド(電子パネル)です。本人曰く、5万枚以上を用意しているそうです。そこにデータや写真などを映し出し、過激な言い回しを交えながら2時間前後にわたり、聴衆の質問に答えるなどして演説を進めるのが、彼のスタイルです。
扱うテーマは「貧困」に関するものが多い。演説のなかで必ずといっていいほど登場するスライドが、「生活が『大変苦しい』『やや苦しい』と感じている世帯の割合」と題したもので、「全世帯57.7% 母子世帯82.7%」と映し出します。出典は厚生労働省の国民生活基礎調査で、全世帯の数字は平成30年、母子世帯の数字は大規模調査を行った28年の結果です。
わざわざ母子世帯のデータを出しているのは、自身が母子家庭で育ったことと無関係ではないでしょう。実際、母子家庭のほうが生活が苦しいと感じている割合が多いのは頷けます。さて、ここでは「57.7%」が持つ意味について考えます。このスライドを見せながら、山本はこう言います。
「消費税は廃止にしたい。消費や投資が落ち込んでいる。当然、国は衰退します。物を買う力が落ちれば所得も落ちていく。このまま放置されてしまえば、より格差は開いていくだろう。生活が苦しいという人たちが57.7%。こんな状態になっているのは、この人たちの責任かってことだ。みなさんのせいにされている。あなたが頑張らなかったんじゃないの? と。あり得ない」
これは昨年12月6日に京都市内で行った街頭演説での発言ですが、ほかの地域でも同様の主張を繰り返しています。消費税廃止は、山本にとって1丁目1番地の政策です。聴衆の多くは「苦しいのは自分だけではない。国民の過半数が『生活が苦しい』と思っていたんだ」と山本と認識を共有していくのでしょう。
しかし、特定の年だけを切り抜いて統計を論じるのはナンセンスです。過去と比較してこそ意味があります。
下記の表にあるように、消費税率が5%から8%に上がった平成26年は25年に比べて割合は増加し、62.4%となりましたが、その後、低下傾向にあり、30年は57.7%になりました。消費税率が上がる前年の25年は59.9%ですから、消費税率は上がったのに「生活が苦しい」の割合は下がったことになります。
連鎖的に世界規模の金融危機が発生したリーマン・ショックの前年、つまり金融危機発生前で、かつ、いざなみ景気の期間中にあたる平成19年ですら57.2%で、30年とさほど変わりません。さらに遡って、バブル崩壊による景気後退局面の平成5年はよほど多くの人が「苦しい」と感じているのかと思いきや、46%といまより低いではありませんか。
ことほどさように、消費税や景気との因果関係を語るのは無理があるということです。
山本はよく「20年以上に及ぶデフレは日本しかない。日本は瀕死の状態だ」と語りますが、「20年以上のデフレ」の一言で日本経済の実態や生活実感を語るのは、いささか雑といえます。やっていることはデータの乱用に近い。都合よくデータを活用しているのは、これだけではありません。