山本太郎ファクトチェック|坂井広志

山本太郎ファクトチェック|坂井広志

「空気を読めるから、空気を読まない」。“歩く風評被害”と呼ばれる山本太郎がついに、東京都知事選に立候補。“おもしろい”選挙戦になることは間違いないが、“おもしろい”で本当にいいのだろうか。空気に流されないために、山本太郎の過去の言説をファクトチェック!彼は民主主義の救世主か、それとも……。“ファンタジー・ヤマモトタロウ”の正体とは?


「夢」を売る山本太郎

れいわ新選組の山本太郎代表が、昨年9月からスタートさせた全国行脚は大盛況だったようです。昨年7月の参院選比例代表で、比例候補のうち最多の約99万票を獲得した、その勢いはまだ続いているようです。なぜ、彼にそんなに支持が集まるのでしょうか。

一つは彼の政策にあります。消費税を廃止するとともに、新規国債を発行して財源を確保し、財政出動を強力に行い、バラマキ政策を推し進める。これで国家が破綻しないのなら、バラ色の政策と言える。要は、「夢」を売り続けているというわけです。

また、現代の「貧困問題」の主人公となっている、バブル崩壊で就職難に遭遇した、現在30代半ば~40代半ばの就職氷河期世代に焦点を当て、この世代に怒りの火を焚き付けて、ムーブメントを起こすことに成功したことも大きい。

永田町全体を敵に回し、反権力の象徴というポジションを確立しつつあることも無視できません。政府・与党の政策に反発し、野党の国会運営に対し「生ぬるい」といわんばかり噛みつく。ヒールに徹したその演技力は、さすが元俳優だけあります。

そんな彼が権力を握ったとき、こんなはずではなかったと有権者が落胆しないためにも、いまからしっかり、政策や主張の中身を吟味しておく必要があります。

『ニューズウィーク日本版』(2019年11月5日号)の表紙にもなり、ホットな存在でい続けているこの人物。ここは冷静に、彼が今軸足を置いている経済政策だけでなく、憲法や外交など他の分野も含めてファクトチェックをしていきましょう。

「生活が苦しい」は本当か

山本が街頭演説をする際、必ずといってよいほど用意するのがスライド(電子パネル)です。本人曰く、5万枚以上を用意しているそうです。そこにデータや写真などを映し出し、過激な言い回しを交えながら2時間前後にわたり、聴衆の質問に答えるなどして演説を進めるのが、彼のスタイルです。

扱うテーマは「貧困」に関するものが多い。演説のなかで必ずといっていいほど登場するスライドが、「生活が『大変苦しい』『やや苦しい』と感じている世帯の割合」と題したもので、「全世帯57.7% 母子世帯82.7%」と映し出します。出典は厚生労働省の国民生活基礎調査で、全世帯の数字は平成30年、母子世帯の数字は大規模調査を行った28年の結果です。

わざわざ母子世帯のデータを出しているのは、自身が母子家庭で育ったことと無関係ではないでしょう。実際、母子家庭のほうが生活が苦しいと感じている割合が多いのは頷けます。さて、ここでは「57.7%」が持つ意味について考えます。このスライドを見せながら、山本はこう言います。

「消費税は廃止にしたい。消費や投資が落ち込んでいる。当然、国は衰退します。物を買う力が落ちれば所得も落ちていく。このまま放置されてしまえば、より格差は開いていくだろう。生活が苦しいという人たちが57.7%。こんな状態になっているのは、この人たちの責任かってことだ。みなさんのせいにされている。あなたが頑張らなかったんじゃないの? と。あり得ない」

これは昨年12月6日に京都市内で行った街頭演説での発言ですが、ほかの地域でも同様の主張を繰り返しています。消費税廃止は、山本にとって1丁目1番地の政策です。聴衆の多くは「苦しいのは自分だけではない。国民の過半数が『生活が苦しい』と思っていたんだ」と山本と認識を共有していくのでしょう。

しかし、特定の年だけを切り抜いて統計を論じるのはナンセンスです。過去と比較してこそ意味があります。

下記の表にあるように、消費税率が5%から8%に上がった平成26年は25年に比べて割合は増加し、62.4%となりましたが、その後、低下傾向にあり、30年は57.7%になりました。消費税率が上がる前年の25年は59.9%ですから、消費税率は上がったのに「生活が苦しい」の割合は下がったことになります。

連鎖的に世界規模の金融危機が発生したリーマン・ショックの前年、つまり金融危機発生前で、かつ、いざなみ景気の期間中にあたる平成19年ですら57.2%で、30年とさほど変わりません。さらに遡って、バブル崩壊による景気後退局面の平成5年はよほど多くの人が「苦しい」と感じているのかと思いきや、46%といまより低いではありませんか。

ことほどさように、消費税や景気との因果関係を語るのは無理があるということです。

山本はよく「20年以上に及ぶデフレは日本しかない。日本は瀕死の状態だ」と語りますが、「20年以上のデフレ」の一言で日本経済の実態や生活実感を語るのは、いささか雑といえます。やっていることはデータの乱用に近い。都合よくデータを活用しているのは、これだけではありません。

山本太郎と共産党の主張はうり2つ

消費税廃止の代わりに、「法人税の累進制化」の導入を訴えています。儲かっている企業からは税率を高めにして、多くの税金を取ろうというわけです。

市場経済を否定するかのような言動を取る左派系が、よく行う主張です。利益が上がれば上がるほど税金を取られるようでは、企業はたまったものではありません。企業は法人税が少しでも安い海外に逃げていくのが関の山といえそうですが、彼は「そうではない」と言い張ります。

その根拠に使っているデータが、経済産業省の企業を対象にした海外事業活動基本調査です。これの平成26年度の結果がスライドでよく登場します。タイトルは「海外進出を決定した理由」。

映し出すのは上位3位(項目)の結果です。それによりますと、1位は「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる」が67.5%、2位が「納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある」の32.9%、3位が「進出先近隣3国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」の28.3%となっています。

京都市内での街頭で山本は上位3位の結果を示して、「とにかく物が売れなきゃいけないんだ。それがよくわかる内容だと思います」と語りかけ、次のスライドで「第8位 8.7% 税制、融資等の優遇措置がある」と映し出して、「意外と少ないでしょ」と話していました。

元のデータを調べたところ、正しくは「5位 8.0%」でした。データを使う場合は正確性を期しましょう。

さて、この「8.0%」をどう見るかですが、先進国の間で法人税の引き下げ競争が激しさを増しているのは言うまでもありません。企業誘致のための税率引き下げ競争が激化し、税制の優遇措置が海外投資のインセンティブにならなくなっている現実があるのです。したがって、順位は上位にならない。それだけのことです。ちなみにこの経産省のデータは、共産党機関紙「しんぶん赤旗」もたびたび取り上げています。税金を徴収する標的に大企業を据えている点で、山本と共産党の主張はうり2つです。

消費税0%の参謀は共産党と深い仲

加えて、山本は所得税の最高税率の引き上げも主張しており、法人税の累進制化などと合わせて29兆円の財源が捻出できると「試算している人がいる」と訴えています。

昨年12月4日の日本記者クラブ主催の記者会見では、「これ以上精緻な計算をするということなら、財務省にしてもらうしかない。正しい数字を出させるためには政権を取る以外にない。とにかく、ないところから取るな、あるところから取れということだ」と語っています。要は、明確な根拠に基づいてはじき出した金額ではないということです。

「29兆円」とは、一体だれが試算しているのでしょうか。税理士で立正大学法学部の浦野広明客員教授は昨年1月14日付の全国商工新聞で、「申告所得税の累進化で約10兆円、法人税の累進化と大企業優遇税制の是正で約19兆円(菅隆徳税理士試算)、合わせて約29兆円の財源が生まれます。不公平な税制をただせば、消費税に頼らなくても財政は成り立ちます」と主張しています。

浦野教授は「しんぶん赤旗」にしばしば登場し、昨年2月26日に行われた衆院予算委員会の中央公聴会には共産党推薦の公述人として出席し、消費税増税反対を訴えています。

菅税理士も、全国商工新聞と「しんぶん赤旗」に登場したことがあります。全国商工新聞は、共産党と深い仲にある全国商工団体連合会(全商連)が発行している新聞です。どうにも共産党の影がちらつきます。

山本の経済政策は、いま流行りのMMT(モダン・マネタリー・セオリー)と呼ばれる現代貨幣理論をベースにしていることがうかがえます。独自の通貨をもつ国は、インフレが起きない限り国債を発行し続けることができるという経済理論で、要は国の借金を気にしないで財政出動をしても、国家は破綻しないという考え方です。

財源はいくらでもあるかのようなこの考え方に基づき、山本は奨学金徳政令や最低賃金1500円、1人あたり3万円の現金給付などの政策を掲げています。奨学金徳政令などからは、氷河期世代をターゲットにしていることがわかります。

山本は新規国債の発行を「インフレ目標2%に到達するまで」としています。現金給付も「インフレ率2%に到達した際には終了」と主張。それでは、どういった試算に基づいて2%という数字をはじき出しているのでしょうか。

昨年8月7日に東京都内で行った日本ジャーナリスト協会主催の記者会見で、インフレ目標2%についてこんなことを言っています。

「私は2%である必要は必ずしもないと思っています。国の実態を見て、それが3%になるのか、4%になるのかは、その国の実態を見ながらの判断だと思っています。ただ、いま日銀と国が『2%』ということを言っているので、『じゃあとりあえず2%でもいいよ』という話なんです」

つまり、2%というのは腰だめの数字というわけです。

日本はインフレが起きにくい状況にあります。それをいいことに、新規国債で借金まみれになって本当に問題ないのでしょうか。

2%に達したらバラマキはやめざるを得なくなるわけで、国民の間に不公平が生じるのは確実です。

MMTをベースとしたとみられる「反緊縮」という経済政策をめぐっては、左派系の論陣からさえ異論が出ています。

たとえば、同志社大大学院の浜矩子教授は週刊誌『サンデー毎日』(2019年9月22日号)でのインタビュー記事で、「山本太郎さんも安倍首相も、私から見たら同じ穴のむじなです」としたうえで、「『緊縮財政の必要性など一切考慮せずに大盤振る舞いの財政支出を展開する。そのことによって国家主導の経済体制を構築する』という国威発揚型の国家観に根差している」と分析しています。

さらには、「ムソリーニやヒトラーが軍事目的と失業対策を兼ねて高速道路を整備した歴史を彷彿させます」とまで語り、嫌悪感をあらわにしています。こうした左派陣営からの異論が、山本の政治思想をより分かりにくくしています。

よく理解せずに、「増税しないで財政支出を増やす」という甘い蜜に飛びつく有権者は多いはずです。それが山本人気につながっているのは間違いありません。甘い蜜には罠がある。この言葉をいま一度、胸に刻み込む必要があります。

親の面倒は見なくていい?

次に、生活保護についてです。消費税率が8%から10%に引き上げられた昨年10月1日に、JR新宿駅西口前で行った街頭演説で山本はこう語っていました。

「(自民党の)片山さつきさん、あおられていましたよね。芸人のお母さんが生活保護を受給されていた。何か問題あるんですか。芸人の息子が金儲けしていて、お母さんが生活保護を受ける状態にある。これにみんなが噛みついた。親の面倒ぐらいみろよ。なんだ、その呪いの言葉ってことなんですよ」

「家族だから面倒見なければならない? 夫婦だから何とかしなければならない? 同じ地域だからどうにかしなければならない? 共助とか自助とか、そういうものに頼りきるような政治に、どうして税金を取られなければならないんだ」

しかし、生活保護は最後の最後に頼るべきものです。親族から援助が受けられるのなら受けたうえで、それでも最低限の生活が成り立たない場合に生活保護費を受給するのが原則です。このため、生活保護の申請があった場合、全国に設置されている福祉事務所は、資産の有無や親族からの援助を受けているのかなどを徹底的に調べます。そうしなければ国民の理解は得られません。財源は税金ですから。

山本が挙げた事例に関し、母親が生活保護を受け始めたとき、息子は芸人として売れておらず、援助する余裕がなかったとされています。その後、この芸人は売れるようになったため、親に援助するのが筋ではないかという世論の声が沸き起こり、世間の耳目を集めたわけです。

いくつか異議を唱えたいと思います。まずは、「親の面倒くらいみろよ」が「呪いの言葉」と言っている点です。これは、山本の家族観を反映したものでしょう。

もちろん、親の面倒をみる余裕がない人は、この世の中に多数います。特に氷河期世代には、不安定な雇用を余儀なくされた人が多く存在し、この人たちにとっては自分自身の生活すら厳しいのが現実です。

しかし、「呪いの言葉」は言い過ぎです。子供が親の面倒を見なくて何が家族でしょうか。

社会を構成する基本的単位である家族の崩壊、家族の否定に直結しかねないこの考え方は、無秩序の社会を生み出しかねない点で危険としか言いようがありません。

社会秩序の破壊願望

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氷河期世代には非正規雇用が多いため、将来、無年金や低年金が続出することが予想されます。その結果、生活保護受給費は急増することが懸念されます。生活保護を決めるための調査は厳格化しなければ、国の財政は破綻しかねません。そんな国に誰がしたのか、と歴代の政権を批判するのは簡単です。その批判は、現役世代から支持を得られるかもしれません。

しかしだからといって、「どうして税金を取られなければならないんだ」と納税義務にまで物申していては、国家は成り立ちません。モラルハザードが起きかねない。以前から山本の考え方に危険な香りを感じてきましたが、こうした生活保護に関する発言からも、社会秩序の破壊願望を感じざるを得ません。

このとき、山本はスライドで「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めた憲法13条を映し出し、「個人として尊重されるのがこの国のルールなんだろ」と強調しています。「個人の自由」というものをはき違えた議論といえます。

いわゆる「貧困問題」に絡めて、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とする憲法25条を映し出すことも忘れません。

この条文を読み上げ、「そんな生活を送られている方は、このなかにどれくらいいますか。日本全国を歩いて聞いても、ほとんどいない。憲法は守られていないじゃないか、という話ですよ。憲法を守る気もないような人間が、何が『憲法を変えよう』や。盗人が『窃盗罪を緩めろ』、詐欺師が『詐欺罪を緩めろ』と言っているのと一緒ですよ。憲法の問題も消費税の問題も全部つながっている」と口汚く罵っていました。

マレーシアの消費税廃止

さて、憲法問題とつながっているという消費税の問題ですが、よく引き合いに出しているのはマレーシアの例です。新宿での街頭演説でも、マレーシアの個人消費の推移を折れ線グラフで示したものをスライドで見せながら、「消費税が廃止されたことによって、個人消費は上がっていったと思っています」と主張しています。

ここで簡単に事実関係を整理しておきましょう。マレーシアでは2018年5月の総選挙で、マハティールが率いる野党連合「希望連盟」が勝利し、同氏は再び首相に就任しました。同氏は同年6月、公約の目玉に掲げていた6%の消費税(GST)廃止を実行に移しました。同年9月からは消費税に代わって、課税対象が大幅に限定される売上・サービス税(SST)を再導入しました。

SST再導入までの3カ月間は、個人消費は当然のことながら堅調でした。税率ゼロですから。いわゆる「タックスヘイブン」です。SST再導入後、個人消費はいったん落ち込みますが、再び回復軌道に乗っているとされ、この見方は山本も専門家もおおむね一致しています。

しかし、マレーシアのケースが日本にそのまま当てはまるかどうかは慎重に吟味する必要があります。高齢化大国・日本の平均年齢はおよそ47歳です。これに対し、マレーシアは28歳です。購買力に差が出るのは当然です。もっとも、こうした反論を山本はこれまで受けてきたようで、街頭で再反論しています。

「景気が下がるような不確定要因がいくつもあったなかで景気が上向いていったということは、消費税の廃止が寄与しているとしか言いようがないんじゃないかと思う。その不確定要因とは米中の貿易戦争。GDPの多くを輸出が占めるマレーシアは大きな打撃を受ける。そのなかでも消費は上がっていっている」

「ほかにも、マレーシアにも外国人労働者がどんどん入ってきている。外国人労働者によって自国民の賃金が上がりづらい状況が生まれている。消費にブレーキがかかるような状況です。こういう状況を考えてみても、マレーシアの消費はまだもっているというか、成長していっている」

この発言のキモは、「消費税の廃止が寄与しているとしか言いようがないんじゃないか」です。

消費税廃止が景気回復の要因になっているかどうかは専門家の間でも判然としておらず、山本の主張も思い込みの域を出ていません。しかも、SSTは課税対象が消費税より狭いため、税収減となりました。この穴埋めにマレーシア政府は四苦八苦しています。

実は、憲法9条改正論者

憲法について、山本はどのような考え方の持ち主なのでしょうか。昨年8月7日の日本ジャーナリスト協会主催の記者会見では、このようなことを語っています。

「一言一句変えてはならないとは思っていません。時期は考えなければならない。少なくとも、この国に生きる多くの人が、政治や憲法に関して、居酒屋やレストランなど好きな場所で好きな時に話をしても浮かないという社会的空気にならなければ憲法改正はできない。10年後?  何年後?  それは分かりません」

変えてはならないとは思っていないと主張しながら、「10年後」などと言い出すあたりは、護憲派といって差し支えないでしょう。憲法改正を否定しない姿勢を示しながら、憲法改正論議を本格的に行おうとしない立憲民主党の枝野幸男代表と似たり寄ったりです。こんなことも述べています。

「れいわ新選組的に、憲法を変えなければいけないとするならばどこなのか。憲法9条です。2015年の安保法。これが原因です。憲法を飛び越えた立法がされた。解釈という力技だけで行われた。二度とそのような詐欺的な扱いができないような状況にする必要がある。たとえば何か。(自衛隊は)専守防衛に徹底することであったり、日本の領土、領域からは出ないということを明記したりとか。そういった9条の改正が将来的に必要であろうと思っています」

これは山本の持論で、彼の著作『僕にもできた! 国会議員』(筑摩書房)にも同様のことが書かれています。同書には、「安倍さん的な改憲になってしまうと、他の国々と同じように集団的自衛権もフルでできるようになってしまう。となると、アメリカが行う世界戦略には日本もお供いたしますとなってしまう。イラク戦争を速攻で支持したようなことが、全行程において自衛隊を伴う動きになっていくということです」と書いています。このロジックは、これまた共産党とうり2つです。

山本は、国会質問をまとめた『みんなが聞きたい 安倍総理への質問』(集英社インターナショナル)という本も出しています。

同書によると、平成27年7月29日に参院で行われた「平和安全法制に関する特別委員会」で、当時「生活の党と山本太郎となかまたち」共同代表だった山本は、「日本の領域に対する急迫不正の侵害に対しましては、従来どおり個別的自衛権と日米安保で対処します」と発言しています。日米安保廃棄と言っている共産党とは異なり、日米安保は認めているようです。

同時に、真意を測りかねる発言をしています。「尖閣、小笠原、東シナ海の中国漁船等については、海上保安庁の能力を一段と高め、自衛隊はそれをサポートすべきです」としたうえで、「中国に国際法に違反するような行為があったとするならば、APECやG7などとも協力して経済制裁をすることとし、そのことを抑止力とすべきではないでしょうか」と語っているのです。

構成メンバーに中国があり、「メンバーを法的に拘束しない、緩やかな政府間協力の枠組み」という性格をもつAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に、どんな抑止力が期待できるというのでしょうか。

「竹島あげる」発言の真意

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話は変わりまして、日本固有の領土である竹島をめぐる山本の考え方も放置するわけにはいきません。

著書『山本太郎 闘いの原点 ひとり舞台』(ちくま文庫)のなかで、「『竹島は韓国にあげたらよい』と僕が言ったとされる発言も、事実と違っていて、ただ言葉じりを取られて全然違うふうに伝わってしまったんですけど……」という件があります。

それでは、真意はどこにあったのでしょうか。「言ったとされる」と書いていますが、言ったのでしょうか、言っていないのでしょうか。検証したいと思います。

事実関係として、山本は平成20年7月20日放送の読売テレビの番組「たかじんのそこまで言って委員会」で、竹島について「悪い象徴である島であるんだったら、それを清算する意味でもあげたらいいじゃないかと思うわけですけど」と発言しています。

このとき、同じく出演していた政治評論家の故三宅久之が「あなたと同じ意見をかつて朝日新聞の論説主幹が書いて、非常にバッシングを受けたことがある」と語り、評論家の宮崎哲弥が「領土問題は1カ所で譲ってしまうと、たとえば下手すると韓国は対馬まで自分の領土だと言い出しかねない。だから原則は譲ってはいけない」と忠告しています。

発言は物議を醸し、「ネット右翼」と呼ばれる人たちから批判を受けたそうです。23年10月20日のインターネット番組のニコニコ生放送「田原総一朗 談論爆発!」に出演した際、真意をこう語っています。

「本当に国土を守るという意識であれば、もっと本気でやらないとだめでしょ。日本は『固有の領土です』と言うだけだ。ネット右翼といわれる人たちがいる。家でごろごろしている暇があって僕に竹島の問題のことを言うんだったら、漁船に乗ってすぐ行ってくれ。アクションを起こしてくれと思う」

しかも続けて、「本当はいま戦争なんてしてもうまみはないんだから、共同管理が一番いいと思う」と語っているのです。

しかし、なぜ共同管理をしなければならないのでしょうか。韓国が不法占拠している現実に照らして、譲歩すべきだという考えなのでしょうか。国家主権というものに対する問題意識の低さを感じます。

ちなみに、日本維新の会の創設者で元大阪市長の橋下徹も、かつて共同管理を主張したことがあります。24年9月に大阪市内で行われた討論会で、「どうやって共同管理に持ち込むかという路線に舵を切らなければならない」と発言しています。橋下は右のポピュリスト、山本は左のポピュリストとよく言われます。なぜ、ポピュリストと呼ばれる人たちは「共同管理」論に流れるのでしょうか。不思議です。

日韓関係をめぐっては、昨年8月1日のJR新宿駅西口前での街頭演説で「日韓関係、これが悪化して喜ぶのは誰だってことですよ。『なめられてたまるか』『ぶっつぶしてやれ』みたいな小学校高学年くらいの考え方はやめましょうってことなんです。大人になろうぜってことなんですよ」などと威勢よく語っています。はい。それは韓国に言ってください。

右翼でも左翼でもない、フリースタイル

これまで山本の政策を分析してきましたが、左派色が強いのは間違いありません。ただ、左翼とは明らかに感覚が異なる部分があります。それは天皇陛下についてです。

平成25年10月31日、秋の園遊会で、山本は天皇陛下(いまの上皇さま)に直接手紙を渡し、保守派の面々からは「極めて無礼」と批判を受けました。

このことに関連して、山本は『ニューズウィーク日本版』(昨年11月5日号)で、いまの上皇さまについて「お父さんのような感じを抱いています。私が母子家庭で育ち、家に父親がいなかったから、父性的なものを求めているというのはあると思います」と語っています。

この感覚は、明らかに左派系が抱くものとは異なります。山本は記者団に対し、「私は右翼でも左翼でもない。保守とか革新とかいう話ではない。フリースタイルだ。右も左もいいところをもらって、こっちがやらせてもらうわ、くらいの勢いだ」と語ったことがありますが、左右のイデオロギーの枠組みのなかで位置づけられることを嫌います。

左派色が強い立憲民主党の枝野幸男代表がれいわ新選組を敵視するのも、近親憎悪ということのほかに、山本が「フリースタイル」であるがゆえに左派だけでなく、イデオロギーというものに無関心な無党派層も持っていかれる、という危機感があるためです。

そういう意味では、山本が掴みどころのない人物であるのは間違いありません。それだけに、彼の政策にはよくよく注意しなければなりません。脱原発の持論も、決して捨てたわけではありません。れいわ新選組の政策には「『トンデモ法』一括見直し・廃止」があり、「トンデモ法」として「TPP協定、カジノ法、特定秘密保護法、安全保障関連法」などを挙げています。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設にも反対しています。

彼の政策は、左派系団体のそれと重なり合う部分は多いのです。

ファンタジー・ヤマモトタロウ

『ニューズウィーク日本版』のインタビューでは、「私のなかで1丁目1番地から原発・被曝問題が外れたわけではありません」と語りながらも、なぜ経済政策を中心に訴えているのかについて、こうあけすけに語っています。

「人々の関心という点で考えるなら、目の前の生活がやはり大事になります。人に政治の話を聞いてもらおうというときに、原発や被曝だとどうしても入り口が狭くなりますよね。原発問題に関心を持ってもらうためにも、最初は入り口を広げておくんです。扉を最大限に広げておくためには、経済政策が大事ですよ」

昨年、山本は『ニューズウィーク日本版』のほかに、意外な雑誌の表紙を飾りました。もちろん、「まるごと山本太郎 れいわ新選組」と題した『週刊金曜日』臨時増刊号のことではありません。

男性ファッション誌『GQ JAPAN』12月号です。

彼は参院議員時代、「国会の野良犬」と自称していました。たしかにそんなイメージではありますが、その彼が街頭では貧困問題を訴え、GQのなかでは高級なコートやジャケットを身にまとって、モデルのように振る舞っているのです。まるで変幻自在といわんばかりです。同誌のなかで、「まずは自分たちのやっていることが現実的で、ファンタジーではないということを示す必要があります」と語っています。

変幻自在な男の口から出てきた「ファンタジー」という言葉。彼の演説には、中央官庁が公表しているデータが多数出てきます。役所のデータを駆使することで客観性を装い、根拠に基づいた政策立案(EBPM=エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)を地で行っているつもりかもしれませんが、それでも彼が思い描く社会は「ファンタジー」にしか見えません。
(文中敬称略)
(初出:月刊『Hanada』2020年3月号)

著者略歴

坂井広志

https://hanada-plus.jp/articles/280

1970年生まれ、兵庫県西宮市出身。成蹊大経済学部卒。94年、産経新聞社入社。甲府支局、多摩支局、整理部、社会部を経て政治部に配属。平河(自民党)クラブキャップ、野党キャップ、霞(外務省)キャップなどを経て、現在、厚生労働省キャップ兼野党クラブ顧問。

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