氷河期世代には非正規雇用が多いため、将来、無年金や低年金が続出することが予想されます。その結果、生活保護受給費は急増することが懸念されます。生活保護を決めるための調査は厳格化しなければ、国の財政は破綻しかねません。そんな国に誰がしたのか、と歴代の政権を批判するのは簡単です。その批判は、現役世代から支持を得られるかもしれません。
しかしだからといって、「どうして税金を取られなければならないんだ」と納税義務にまで物申していては、国家は成り立ちません。モラルハザードが起きかねない。以前から山本の考え方に危険な香りを感じてきましたが、こうした生活保護に関する発言からも、社会秩序の破壊願望を感じざるを得ません。
このとき、山本はスライドで「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めた憲法13条を映し出し、「個人として尊重されるのがこの国のルールなんだろ」と強調しています。「個人の自由」というものをはき違えた議論といえます。
いわゆる「貧困問題」に絡めて、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とする憲法25条を映し出すことも忘れません。
この条文を読み上げ、「そんな生活を送られている方は、このなかにどれくらいいますか。日本全国を歩いて聞いても、ほとんどいない。憲法は守られていないじゃないか、という話ですよ。憲法を守る気もないような人間が、何が『憲法を変えよう』や。盗人が『窃盗罪を緩めろ』、詐欺師が『詐欺罪を緩めろ』と言っているのと一緒ですよ。憲法の問題も消費税の問題も全部つながっている」と口汚く罵っていました。
マレーシアの消費税廃止
さて、憲法問題とつながっているという消費税の問題ですが、よく引き合いに出しているのはマレーシアの例です。新宿での街頭演説でも、マレーシアの個人消費の推移を折れ線グラフで示したものをスライドで見せながら、「消費税が廃止されたことによって、個人消費は上がっていったと思っています」と主張しています。
ここで簡単に事実関係を整理しておきましょう。マレーシアでは2018年5月の総選挙で、マハティールが率いる野党連合「希望連盟」が勝利し、同氏は再び首相に就任しました。同氏は同年6月、公約の目玉に掲げていた6%の消費税(GST)廃止を実行に移しました。同年9月からは消費税に代わって、課税対象が大幅に限定される売上・サービス税(SST)を再導入しました。
SST再導入までの3カ月間は、個人消費は当然のことながら堅調でした。税率ゼロですから。いわゆる「タックスヘイブン」です。SST再導入後、個人消費はいったん落ち込みますが、再び回復軌道に乗っているとされ、この見方は山本も専門家もおおむね一致しています。
しかし、マレーシアのケースが日本にそのまま当てはまるかどうかは慎重に吟味する必要があります。高齢化大国・日本の平均年齢はおよそ47歳です。これに対し、マレーシアは28歳です。購買力に差が出るのは当然です。もっとも、こうした反論を山本はこれまで受けてきたようで、街頭で再反論しています。
「景気が下がるような不確定要因がいくつもあったなかで景気が上向いていったということは、消費税の廃止が寄与しているとしか言いようがないんじゃないかと思う。その不確定要因とは米中の貿易戦争。GDPの多くを輸出が占めるマレーシアは大きな打撃を受ける。そのなかでも消費は上がっていっている」
「ほかにも、マレーシアにも外国人労働者がどんどん入ってきている。外国人労働者によって自国民の賃金が上がりづらい状況が生まれている。消費にブレーキがかかるような状況です。こういう状況を考えてみても、マレーシアの消費はまだもっているというか、成長していっている」
この発言のキモは、「消費税の廃止が寄与しているとしか言いようがないんじゃないか」です。
消費税廃止が景気回復の要因になっているかどうかは専門家の間でも判然としておらず、山本の主張も思い込みの域を出ていません。しかも、SSTは課税対象が消費税より狭いため、税収減となりました。この穴埋めにマレーシア政府は四苦八苦しています。