武漢ウイルス研究所の謎|山口敬之

武漢ウイルス研究所の謎|山口敬之

武漢ウイルス研究所を起点とする「人工ウイルス説」は果たして本当なのか。中国は否定するが、ポンペオ米国務長官はいまなお大きな懸念を示している――。発生源は武漢の海鮮市場なのか、それとも、武漢ウイルス研究所から流出したものなのか。門外不出の極秘情報をもとに、フリージャーナリストの山口敬之氏が武漢ウイルス研究所の謎に迫る!昨年12月に武漢を訪れた「謎の3つの団体」の正体とは……。


いくつもの高いハードル

しかし、乗員、乗務員を確保したあとも、様々なハードルが待ち構えていた。政府は「できるだけ多く、できれば200人程度の邦人を乗せたい」と強く要請した。

定期便で武漢に飛ばしていたボーイング767-300ER型機は、座席数が202席しかない。パイロットの免許は運航機材が指定されているから、武漢に飛ばす機体は767型機以外の選択肢はなかった。しかし、武漢の地上業務を行う地上職を少なくとも5人は乗せなければならないから、どうみても座席が足りない。

そこで全日空は、同じ767でも国内線で運航している767-300タイプの投入を決めた。これならば270席の座席があるから、必要な会社の人員を乗せたうえで、200人以上の邦人を乗せることができる。

こうして1月28日午後8時13分に羽田を出発した第1便は、およそ12時間半後に無事羽田空港に戻ってきた。しかし、武漢の邦人を救ったパイロット、キャビンアテンダント、地上職員の試練はこれで終わりではなかった。

彼らはその後、14日間出勤を禁じられ、自宅待機となったのである。朝晩の検温と健康状態の報告を義務付けられ、自分が感染していないかという恐怖に加え、同居する家族にうつさないよう細心の注意を払いながら、じっと耐える日々を送った。

会社の経営上のダメージも少なくなかった。2月上旬までのわずか1週間ほどで全日空はチャーター便4便を飛ばし、合わせて763人の邦人と中国籍の配偶者らを武漢から救出した。その結果、業務に当たった10人のパイロット、24人のキャビンアテンダント、20人あまりの地上職員全ての人員を、丸々2週間、業務から外さねばならなかった。また、一部の利用者からは、機内の消毒態勢について問い合わせがきた。ウイルスが新型だけに、会社のブランドイメージを危惧する声もあった。

しかし、こうした企業としての様々なマイナスを乗り越え、全日空は政府が求めるとおりの日程でチャーター便を飛ばしきった。今後も全日空は政府の要請があれば、何度でもチャーター便を飛ばす覚悟だという。

日本政府の甘すぎる認識

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チャーター便による帰国者の笑顔の傍らで、同じ2月12日に伝えられたもう1つの新型ウイルスを巡るニュースは、一般国民のみならず政府関係者にも大きな衝撃を与えた。横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に立ち入り調査をした50代の男性検疫官が、新型ウイルスに感染していたというのである。

この検疫官がクルーズ船に立ち入ったのは、2月3日夜~4日夜のほぼ丸1日。マスクと手袋はしていたが、ゴーグルや防護服は着用していなかったという。わずか24時間にもかかわらず、専門家ですら自分の身を守り切れないという事実は、このウイルスの感染力の強さをまざまざと見せつけた。

このニュースを解説するほとんど全ての専門家は、目から飛沫感染する可能性があるからゴーグルをすべきだったとか、手袋の着脱を誤ると感染しやすいなど、この検疫官個人の「ミス」の可能性を強調した。

しかし、である。検疫官は感染症のプロであり、ゴーグルをすべきか、防護服を着るべきか、専門的知見で判断し、国民を指導する立場にある。さらに、クルーズ船に立ち入る関係者にゴーグルや防護服の着用を義務付けなかったのは、厚生労働省なのだ。厚生労働省には専門の医官がいて、WHOなどと連携して政府の対策を決めている。

この新型ウイルスに対する政府そのものの認識が根本的に甘かったことを示していた。その後、和歌山、北海道、東京、沖縄──と、感染ルート不明の2次感染者は日本全国に広がっていることがわかった。

この時期、安倍晋三首相は新型コロナウイルスについて訊かれると、「症状はあくまで軽微なんだよね」と周囲に繰り返していた。たしかに、厚労省から官邸に上がってくる新型ウイルスに関する基礎情報は、「感染力は強いが、致死率はインフルエンザよりも遥かに低い」「健常な人は、たとえ発症しても風邪のような症状で平癒する」というものだった。安倍首相の認識も、クルーズ船に立ち入る職員の行動規範も、こうした厚生労働省の「専門家」による報告がベースになっていたことは間違いない。

要するに「インフルエンザが横綱なら、新型は関脇以下」というのが日本の専門家の基本認識だった。しかし次々とネットに出回る情報や映像は、「関脇以下」というような生易しいものではなかった。そのなかには、即座にデマと切って捨てられない、相当な信憑性を伴ったものも少なくなかった。

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