半ば強制的に「監督人」をつける新たな手口
ところで連載終了後、朝日は3月19日の朝刊一面トップで『成年後見「親族望ましい」選任対象 最高裁、家裁に通知 専門職不評、利用伸びず』と報じた。
それによると、3月18日に開かれた成年後見制度の利用促進を図る国の専門家会議で、最高裁は「(後見人には)身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示し、各地の家裁にも通知したという。
この最高裁通知について朝日は、「後見人になった家族の不正などを背景に弁護士ら専門職の選任が増えていたが、この傾向が大きく変わる可能性がある」と前向きに評価している。だが、事はそう単純ではない。
先の宮内康二「後見の杜」代表はこう語る。
「何もしないのに高い報酬を取る士業後見人に対し、国民はノーを突き付けた。それで最高裁は、親族が9割を占めていた制度発足当初に原点回帰せざるを得なくなったに過ぎません」
宮内氏によると、最高裁通知を報じた朝日の記事のポイントは「“日弁連や日本司法書士会連合会などと議論を重ね、考えを共有した”という部分にある」という。
弁護士、司法書士の人数は、司法改革などにより増加。その一方で仕事は減っており、仲間内での仕事の取り合いに負けた“食えない”弁護士や司法書士が大量に後見業界になだれ込んでいるという現実がある。
それなのに、なぜ弁護士と司法書士は“金づる”の後見人ポストを手放し、親族に明け渡すことに同意したのか。理由は「監督人」制度にある。監督人とは、文字どおり、後見人を監督する役回りで、監督人になれるのは弁護士と司法書士に限られる。
監督人をつけられるのは主に親族後見人。親族が親や子供の財産を横領しないよう監視するのが監督人の主な仕事だ。そしてここ数年、最高裁と全国の家裁は、親族後見人に対し、半ば強制的に監督人をつけて監視させる運用を強化しているのだ。
「今後、親族後見人を家裁が選ぶ件数が増え士業後見人が減らされても、弁護士、司法書士は困りません。というのも後見人になれなくても監督人に選任してもらえるからです。しかも監督人の仕事は親族後見人が作成した財産目録のチェック程度で士業後見人よりも楽です。士業後見人は何もしないので批判されていますが、監督人はそれに輪をかけて何もしません」(宮内氏)
報酬に見合った仕事をしない士業後見人でも、本人名義の預貯金通帳などの財産管理については責任を負っている。ところが、監督人にはその責任すらない。
「それでいて監督人は、士業後見人の7割程度の報酬をもらえます。士業後見人は何もしない場合は批判されますが、監督人は財産管理も身上監護(医療・介護などの契約を結ぶこと)の責任もなく、何もせずとも批判されることはない。責任もなく、大した仕事もないのに士業後見人時代よりわずかに少ない程度の報酬をもらえるのです。最高裁の親族後見人回帰に弁護士、司法書士が反対するはずがありません」(宮内氏)
つまり、最高裁が路線を変更したからといって、本人と家族が士業に食い物にされる状況は変わらないということだ(筆者注:その後、最高裁家庭局は”親族を優先するかどうかは各家庭の判断に任せる”と軌道修正した)。
2019年3月19日の朝日新聞朝刊一面
最高裁通知に隠された狙い「後見制度支援信託」の普及
実は、最高裁通知にはもう一つ裏の狙いがある。「後見制度支援信託」(後見信託)を普及させることである。これを監督人の普及と合わせて進めるのが最高裁の狙いである。
後見信託も、親族後見人による横領防止を目的に、ここ数年、最高裁と家裁が利用促進を図っている制度である。
親族後見人が使い込まないよう、日常使わない分の預貯金を半ば強制的に信託銀行に預けさせ、家裁の許可なしに使えなくするものだ。
後見には障害の重い順に「成年後見、保佐、補助」の三つの類型がある。後見信託は成年後見が対象で、比較的障害が軽い保佐、補助では使えない。最高裁は親族が成年後見人になっているケースでは後見信託を利用させ、後見信託の対象ではない親族保佐人、親族補助人に対しては、半ば強制的に監督人をつけて監視体制を強化する運用を進めている。
後見信託、監督人とも横領防止が目的なので、過去に問題を起こしたことのない真面目な親族後見人は「親や子供の財産を私が横領するというのか」と強く反発している。
だが、ある親族成年後見人によれば「家裁判事は“どうしても信託を使わないなら報酬が嵩む弁護士監督人を新たにつけるがそれでもいいのか”と脅し、実際につけてきた。それに抗議すると、今度は成年後見人を解任されて弁護士と差し替えられた」という。この親族は家裁の運用を不当として、国を提訴した。