この制度は、運用面でもあまりにも多くの問題点を抱え過ぎている。朝日の特集でも少し触れているが、この制度はいったん利用すると、本人が死ぬまで止めることができない。本人と家族が、士業後見人や家裁に「止めたい」と泣きついても、決して相手にされないのだ。
また後見人になれるのは士業と呼ばれる弁護士、司法書士、社会福祉士が中心で、本人の預貯金が1000万円以上(東京都内は500万円以上)ある場合は士業が自動的に後見人に選任される。このため現在、後見人の割合は士業が7割以上を占め、親族は3割弱しかいない。
士業後見人が多いことについて、朝日は5回目の連載で、「親族の不正事案の増加も要因」という最高裁の説明を紹介している。つまり、親族を後見人にすると親の財産を横領する恐れがあるので、家裁は親族ではない第三者の士業を後見人に選任しているというのである。
だが、朝日連載の第7回(後を絶たない不正 どう防ぐ?)で触れているように、横領は親族だけでなく弁護士や司法書士後見人も行っている。朝日は報じていないが、16年7月には、司法書士の後見職能団体「成年後見センター・リーガルサポート」のナンバー2だったM専務理事が被後見人3人の口座から約2387万円を横領したとして東京法務局長から懲戒処分を受け、司法書士を廃業している。M氏はリーガルサポート創設時からの主要幹部で、成年後見制度の旗振り役だった。
また、士業後見人中心の運用は、認知症の人などの財産を減らすことにもつながる。無報酬が原則の親族後見人に対し、士業後見人には報酬が発生するからだ。報酬金額は本人の預貯金額に比例するが、年間24万円から36万円、5000万円以上の預貯金があれば年間60万円は確実に取られる。
本人は、年金などの限られた財産から毎年、24─60万円もの報酬を死ぬまで士業後見人に払わされ続けるのだ。本人の財産を守るための制度が逆に財産の浪費につながっているわけで、この制度は経済合理性の観点からも破綻している。
認知症の母親に弁護士の後見人がつけられた娘は私にこう語った。
「後見人がついた途端、母は預貯金の通帳とカード、土地の権利書などすべての財産を弁護士に取り上げられました。母は“私には自由に使えるお金が全然ない”と毎日のように泣いています。弁護士は事務所の金庫に通帳などを入れて保管している以外のことは何もしません。それでいて、毎年20─30万円もの報酬を母の預貯金から取っているようです。この制度で得をしているのは、弁護士など士業後見人だけ。母や私にとって何一つメリットはありません」
報酬金額について「ようです」と推測で話しているのは、家裁と士業後見人が、報酬額について本人や家族に教えず、領収書も発行しないからだ。サービス利用料を受領しながら領収書すら出さないのだから、無茶苦茶である。この点についても、朝日連載は触れていない。
行政機関や金融機関が後見制度利用に誘導する
認知症の夫に弁護士後見人をつけられた主婦は私の取材に、「夫の通帳とキャッシュカードは弁護士が持っているので、いくら報酬を取っているのかも私にはわかりません。成年後見制度というのは、家裁が家庭の財布に穴を開けて士業後見人にお金を流し込むための制度としか思えません」と語り、強い憤りを見せた。
こんな不合理ででたらめな制度を22万人もの人が利用していることが、むしろ不思議なぐらいだ。
ところが利用者を取材すると、「地域の包括支援センターや金融機関などから、家族が後見人になれるので後見制度を利用すべきだと誘導されて仕方なく、家裁に利用を申し立ててしまった。一度使ったら止められないことや、親族は後見人になれないこと、何もしない士業後見人に多額の報酬を払わされることについては、事前に何も説明されなかった」と話す人が多かった。つまり、地域包括支援センターなどの行政機関や金融機関に誘導されて後見を使うことになった人が多いのだ。
朝日連載の第9回では、成年後見制度を推進する柱となる「市区町村の中核機関の設置が遅れている」点を問題視しているが、私には、こうした中核機関の整備が進むことで後見被害者が増えることのほうが、むしろ心配だ。