中国の金融界が揺らいでいる。ノンバンク(非銀行系)の大手信託会社が支払い不能に陥ったからだ。習近平政権は危機深刻化を防ぐ手だてを持たない。最悪の場合、リーマン・ショック級の金融危機を引き起こしかねない。
中国の中央銀行、中国人民銀行はすべての金融機関が手がける投融資を「社会融資総量」として分類している。日本円に換算すると、ノンバンク系は約2700兆円と巨額で、それだけでも日本の現預金と債券、信託や金融商品を合わせたカネの総量(「広義流動性」)の2121兆円(7月末)を大きく上回る。中核に位置するのが信託会社で、最大手級の中植企業集団(本社北京)とその傘下の中融国際信託(同ハルビン)が6月、7月の満期を過ぎても支払いを止めたままだ。
誘爆しかねない「時限爆弾」
習政権は中植などに関する報道を統制してきたが、8月11日に投資者側の株式上場企業3社が規定に従って情報を開示し、露見した。バイデン米大統領はその前日、支援者の集会で、中国経済を「チクタクと時が刻まれている時限爆弾」に例え、「悪い人々が問題を抱えると悪いことをするので、これは良いことではない」と警告していた。
ホワイトハウスは何らかのルートで事前に事態を把握していたはずだ。国内金融規模をドル換算すると、2022年に38兆ドルの中国は米国の21兆ドルを圧倒する。そんな「金融超大国」の波乱は米国をはじめ世界に及ぶ。しかも、中融などを含む中植グループの財務を、米会計コンサルタント大手KPMGが7月中旬に急きょ引き受けた。
「時限爆弾」とは言い得て妙だ。巨大な中国金融からすれば小さな「爆発」のようでも、「誘爆」の連鎖を導き、大規模な金融危機に発展する。2008年9月の米国発のリーマン・ショックは同年3月の中堅の米投資ファンドの破綻が導火線だった。住宅バブル崩壊の背景といい、中植・中融の金融トラブルはリーマン危機を彷彿させる。