2016年はスマホに関するアンケート内容を増やし、使う時のシチュエーションやどんなアプリを使っているかを調べ、LINE同様、アプリごとに影響に特徴はないか調べてみました。
アンケート結果を解析して驚いたのは──教育委員会の方たちも驚きを隠せませんでしたが──スマホを持っている子供の約8割が、家での学習中にスマホを使用しているということです。
では学習中、どのようにスマホを使用しているのか。音楽を聴いているのが7割、ゲームをしているのが全体の3分の1、動画を見ているのが3分の1、LINEが3分の1。足していくと分母を超えてしまいますから、複数のアプリを使用している子供が多くいることになります。
アンケートを解析してわかったことは2つ。
1つは、LINEを除いて音楽、動画、ゲームなど、机に向かっている時に1つのアプリしか使っていない場合は学力に与える影響に差はないこと。2つめは、複数のアプリを切り替えながら、つまりマルチタスキングをしながら勉強している場合は成績が大きく下がることです。
スマホと学力の因果関係ははっきりしているわけですが、なぜスマホを使用すると学力が下がるのか、明確な理由はまだ解明できていません。
スマホをいじると、前頭前野の血流量が下がることがわかっています。前頭前野は記憶する、学習する、行動を抑制する、物事を予測する、コミュニケーションを円滑にするなど、人間ならではの働きを司っている部分。そこの働きが抑制されるわけです。
これはテレビを見たり、ゲームをしたりしている時、あるいはマッサージを受けている時にも同じ状態になります。つまり、一種のリラックス状態になる。この弛緩した状態が長時間続くことで、脳に何らかの影響を及ぼすのではと推測されます。
スマホの問題で悩ましいのは、科学的根拠を出すのが非常に困難な点です。いまの時代、動物実験ができなければ、生命科学の世界では“科学”とは認められません。動物実験をして、遺伝子発現やタンパク質の組成の変化などを見るなどが必要なのですが、実験動物はスマホを使うことができない。
今後は現象論として、継続して調査を積み重ねていくしかないと考えています。
取材を受けたが、ボツに
これらのデータは3年間、仙台市の小学校高学年、中学生約4万人を対象に調査した結果で、信頼性の高いデータです。しかし、こういったスマホのリスクについて、最近は雑誌で少し取り上げてくれますが、新聞、テレビなどの大マスコミはなかなか取り上げてくれません。
関西のある新聞社の記者が、スマホの問題について取材に来ました。その記者は非常に熱心に取材をしてくれて、「これは重要な問題です。大きく取り上げましょう!」と張り切っていたのですが、後日、泣きながら電話がかかってきた。広告主(携帯会社やスマホを製造している電機メーカー)からのクレームを危惧して、上司がその記事をボツにしてしまったというのです。
また、私たちがスマホのリスクについて記者発表しようと動いていると、教育委員会のことを取材している某地元紙の記者が教育委員会に対し、「そのデータを表に出すな」と恫喝してきたこともありました。
最近は新聞社も部数が減り、広告も入らなくなってきていますから、新聞社側の気持ちもわからないではありません。ただ、心ある“普通の大人”であれば、この事実を知れば世間の人に知らせてくれると考えていただけにショックでした。
自分たちのできる範囲で、スマホのリスクについて地道に啓蒙していくしか方法はないと考え、その一環として、毎年、調査結果をまとめたパンフを仙台市内の学校に配るなどしています。
親や先生が、いくら頭ごなしに「スマホを使うな」と子供に言っても彼らの耳には届きません。大人がすでにスマホ中毒になってしまっており、「どの口が言うんだ」と言われてお終いです。きちんとデータを示して、説明してあげないといけない。