国会議員もデマに惑わされ
「新しい歴史教科書をつくる会」が推進する自由社の『新しい歴史教科書』は、文科省による教科書検定で「一発不合格」制度を初めて適用され、抹殺された。今年度行われる教科書採択に教科書をエントリーさせることができなくなったのだから、教科書としての死刑宣告と同じである。
教科書の執筆者グループは、11月5日に「(仮)不合格」を言い渡された後、検定意見405箇所の43%に当たる175箇所についての反論書をつくりあげ、11月25日に提出した。反論書のうち、最低29箇所を「不適切」だったとして当方の反論を認めさえすれば、年度内合格が可能であったのに、文科省はただの1箇所も認めることを拒絶した。
12月25日、文科省が自由社に交付した「反論認否書」の認否欄には、ことごとく「否」の文字が記入されていた。こうして、昨年中に自由社の教科書検定は完了していた。
この一連の経過について、「つくる会」は次のように主張してきた。
文科省の教科書検定は、初めから自由社を「一発不合格」にすることを決めて、そのために検定意見を積み重ねたものの、数が足りないので、こじつけや揚げ足取りによって強引に検定意見を絞り出し、水増しして「一発不合格」の基準となる総ページ数の1.2倍(即ち314ページの自由社教科書の場合は、377箇所以上)となる数にまで積み上げたものだ。
その結果、欠陥箇所は405箇所となった。これは特定の教科書会社を不当に不利に扱った文科官僚による職権濫用であり、不正行為である。従って、今回自由社に対してなされた教科書検定は、全体として「不正検定」である。
「つくる会」側は、さらに100箇所に限定して、検定意見(欠陥箇所)に反論する一書をまとめ、4月28日、飛鳥新社から発行した。藤岡信勝/新しい歴史教科書をつくる会『教科書抹殺 文科省は「つくる会」をこうして狙い撃ちした』(税込み定価1540円)である。
また、自由社は、『検定不合格 新しい歴史教科書』(税込み価格1980円)を市販本として4月28日に発行した。両者を突き合わせることによって、「不正検定」の全体像を知ることができる。なお、市販本では、検定で指摘された誤植などの単純ミス、及び当方で新たに気付いたミスなどは修正しているが、『教科書抹殺』で取り上げた100箇所については、訂正していない。
「つくる会」は今年に入って、2月21日、検定の不正を訴えて事実を公表した。批判された文科官僚は、様々なデマを製造し、国会議員などに吹き込んできた。このような行動を取ったのは、指摘されたことに自らやましいところがあるからである。
しかしながら、彼らのデマは問題の本質をはぐらかす軽視できない悪影響を及ぼしている。国会議員の全てがこのデマに惑わされているというわけではないが、おそらく多くの国会議員は文科官僚の言い分・言い訳をそのまま信じ込み、自由社の教科書は不合格とされても仕方のないほど間違いの多いものだったと思い込んでいるようである。
最近では、保守系言論誌までもがこのデマを真に受けて、驚くべき的外れな議論を展開するという状況になっている。
そこで、以下、文科官僚が自らの保身のために製造し、ばらまいているデマに反撃するために、改めて事実関係を分析して提示し、それが人々のどのような思い見込みや先入見を利用しているかを解剖することとする。
誤字・脱字は29件だけ
「自由社教科書にはあまりにも間違いが多い」というデマは、検定意見の数を根拠にしている。2019年度検定における、中学社会歴史的分野の教科書に対する教科書会社別の検定意見の数を一覧表にすると【図表1】のようになる(検定意見の少ない順に並べ替える)。
なお、不合格教科書については「検定意見」を「欠陥箇所」と言い換えることになっているが、煩雑なので、以下、「検定意見」で一貫させる。