韓国フェミニズムと徴兵の関係
昨今、日本でも韓国発のフェミニズム小説やエッセイが人気だが、それをそのまま日本に持ち込んで同化させられないのではないか、との疑念がある。その理由こそ、まさに「韓国には、日本にはない徴兵制がある」からだ。
韓国の男性は、兵役服務機関を軍隊で過ごさなければならず、高校や大学卒業後に働き始める人々と比べ、社会に出るタイミングが数年遅れることになる。徴兵期間のある男性同士では平等だが、兵役逃れをした男性や徴兵義務のない女性とは差がついてしまう。学歴や出世競争の厳しい韓国で、このタイムラグは大きい。
ただし、多くの企業では兵役経験者を優先的に採用・優遇しており、中には「職場での昇進の際に軍経歴を反映させる」というものまであるという。しかも、この加点は男女双方から支持されているという。
一方で、兵役義務のない女性にはそもそも加点を得られる機会がないので不公平だという声もある。それに対し、女性も志願によって兵役に服務することはできる、いやむしろ女性にも徴兵を課すべきだとの激しい議論も巻き起こっているという。
日本以上に厳しい少子化傾向にある韓国では、今後「女性徴兵」も大きな論点になっていくのだろう。その時、韓国発のフェミニズム思想も大きな変化を余儀なくされる。その時、日本社会はこれをどう受け止めるのだろうか。
日本は韓国から何を学ぶべきか
他にも本書では新兵訓練の内容や、除隊日をカウントするアプリの存在など、韓国における徴兵制度の現実を知ることができる。
社会の連帯と分断、双方に影響を及ぼしている韓国の徴兵制だが、翻って日本はどうなのか。本書でも指摘がある通り、日本では徴兵制は憲法違反とされ、また自衛隊の現場からも「高度な訓練を必要とする現在の自衛隊において徴兵制は必要ない」との声が上がっている。
だが、それは志願制が機能しているからこそ上がる声であって、この先も自衛隊が志願制のみで成り立っていけるかはまた別の話となる。
すでに自衛隊は隊員不足、募集困難に見舞われており、特に「士」の階級は充足率が60%台にまで低下。深刻な事態になっているのだ。
こうした状況を打開すべく、防衛省は「子ども版 防衛白書」を各自治体の教育委員会の許可を得て学校現場に配布している。子供のうちから自衛隊に対する知識に触れることで、将来の職業として選択肢の一つに加えてもらいたいとの思いもあるだろう。だが、一部の現場からの反発を受けていると東京新聞や沖縄タイムズが報じている。
「学校現場に軍事を持ち込むなんて危険だ!」というのが反対の理由だが、そうは言っても「誰か」が自衛隊に入ってくれなければ組織は維持できない。2025年は地方で多発している熊被害への対処に、自衛隊への協力要請をする自治体も出てきたほどだ。
徴兵制が唯一にして最も良い選択肢だとはもちろん言わない。「休戦」状態にある韓国とは事情も違い、徴兵制があることによる社会の分断も看過できない。だが韓国の「自分たちで自分たちの社会を守る」意識は、強固である。
大韓民国憲法第五条には〈国軍は国家の神聖な義務を遂行することを使命とし〉とある。徴兵制もこうした理念に支えられている。
日本ももう少し見習うべきではないだろうか。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

