【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは  金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「神の息子」と「闇の子供たち」

「芸能人だからって兵役免除はおかしいのではないか」という声が国内にあったことは想像し得る一方、韓国では兵役にまつわる俗語として「神の息子」というフレーズがあるという。

「神の息子」とは、身体的・精神的事由や家族の扶養などとかかわる高い経済的困窮度などの正当な理由がないにもかかわらず、兵役判定において兵役免除を受けた人を指す言葉だという。
問題は、この兵役免除を受ける男性が、ある属性に偏って多く存在するところにある。

本書が引く報道では、〈国家機関に勤務する4級以上の高位公職者のうち、10人中1人が「神の息子」と呼ばれる兵役免除者であることが確認された〉という。

これは一般的な割合からすると劇的に多く、親の社会階級によって息子の兵役が免除されやすくなるという不公平な状況があるのでは、と疑われているのだ。

それだけではない。過去には子供の兵役逃れを企図して、親が海外で子供を出産する「遠征出産」が多発した。こうした兵役逃れは、法改正によって今はかなり難しくなった。出生地の国籍を取ったとしても、兵役義務を果たした後でなければ韓国国籍を離脱できない法律になったからだ。

だが、それでも兵役逃れが完全になくなったわけではなく、一般庶民にはなかなかできない、こうした兵役免除のあり方が、特権階層に対する一般層の不満や不信感を増大させることにもなっている。子供の出生地の戸籍を取るために出産時に海外に遠征できるのは、社会階層の高い裕福な人たちに限られるからだ。

ちなみに何の留保もなく兵役義務を履行する人は「闇の子供たち」と呼ばれているそうで、「神と闇」のコントラストは強い。

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徴兵で別れるカップルは9割

徴兵制は韓国人の男女の人生にも大きな影響を及ぼしている。男性が入隊する前に付き合っていたカップルにとっては、彼氏の入隊は大きな困難になる。実に、9割以上のカップルが彼氏の入隊を機に破局するという。

面白いのは、徴兵にかかわるカップルのあり様を表すのに、「入隊した彼氏が除隊するのを待てずに浮気してしまう女性」を「ゴム靴(韓国語ではゴムシン)を履く」と表現し、困難を乗り越えて彼氏を待ち続けることのできた女性を「花の靴(韓国語ではコッシン、花嫁が履く靴のこと)を履く」と表現する習慣だ。

本書では人々のブログなどの書き込みから、待たせる男性、待つ女性の心理を解説しており、これがまた妙に面白い。

著者の金氏は〈軍隊を介した恋愛はやはり、二人の信頼・努力・友情(配慮)の賜物である〉と書いているが、徴兵制によって深まる連帯感や絆は、軍隊に入隊する男性同士だけではなく、恋愛関係における男女の間にも生じるようだ。

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