【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る?  永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る? 永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


雑誌はアイデンティティであり共同体

コミック誌であれオピニオン誌であれ、読んでいる雑誌はイコール、その人のアイデンティティの一部を形成するものである。なかでも女性ファッション誌などは、かなり細かく服装の好みやジャンルが分かれていて、少し前までは雑誌名を冠した「Zipper系」や「CanCam系」などが、そのまま女性たちの系統として認識されていたほどだった。

また、記事単体が同じウェブ上で細切れになって流れてくるのとは違い、雑誌は月刊誌ならその月の、時代性や空気を紙に固定してパッケージとして出版する意味合いが強い。

記事だけではない。広告の場合、ウェブページでは多くは記事と同時に表示される広告はその時々で流動的なものだが、雑誌の場合は当然ながら、掲載時の広告が固定されている。そのため、時間を経て再び雑誌を開けば、刊行当時の広告を見ることができる。いわば、タイムカプセルのような役割もあり、将来的には文化や風俗を辿る資料にもなるだろう。

もう一つ言えば、雑誌は読者にとって「同じ時代に、同じものを手に取り読んでいたもの同士」というある種の共同体意識をはぐくむものでもある。

永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)は、雑誌が担ってきた文化や読者にとっての、読むというだけでない「利用の仕方」などを分析している。

取り上げられる雑誌の中に論壇誌や一般週刊誌はなくカルチャー寄りではあるものの、『週刊少年ジャンプ』や『コロコロコミック』から、女性週刊誌、『ゼクシィ』『東京カレンダー』『時刻表』までと幅広い。

そのため「自分が読み始める前の時代のあの雑誌はこんな表紙だったのか」「懐かしい」「こんな雑誌があるなんて知らなかった」と様々な発見があるのだ。

雑誌利用のメディア社会学: 文化を可能にする「工夫」 (シリーズ●文化の社会学のフロンティア 2)

自分語りを誘発する『週刊少年ジャンプ』

例えばコミック誌の王者、『週刊少年ジャンプ』を取り上げた、池上賢氏が担当している第三章。読者だった人達に対する聞き取りから、『週刊少年ジャンプ』が「自己を語る源泉」であり、ある時点での社会的・歴史的状況を語るために利用されてきた面がある、と指摘する。

確かにそうなのだ。筆者(梶原)はすでに35年の長きにわたり、紙の雑誌で『週刊少年ジャンプ』読み続けている現役読者だが、読み始めた小学生の頃のこと、そしてその当時、女子が『週刊少年ジャンプ』を読むことがどのように周囲からとらえられていたか、自分の人生と重ねて語ることができる。

たまたまだが、2025年33号(7月15日発売号)の『週刊少年ジャンプ』巻末の読者欄で「MY FIRST JUMP」というテーマの読者投稿エッセイが多数掲載された。

投稿者は13歳から68歳(創刊号から欠かさず購読しているというツワモノ)までと幅広い。その内容はまさに池上氏の指摘を裏付けるもので、『週刊少年ジャンプ』との出会いを語ることが、自分語り、時代語りと重なっていたのである。

最盛期の1995年には653万部を記録していたというから、『週刊少年ジャンプ』はまさに国民雑誌であり、読者の同時代体験が、そのまま日本社会の体験の一部をなしていたと言っていいだろう。そして、その体験の中に、筆者自身もいたことをしみじみと実感する。

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