著者は人道支援の観点から、北朝鮮の人々の苦しみを思い、日々職場で顔を合わせる「言葉が通じるのに、あらゆることが違っている北朝鮮の人々」に思いを馳せる。心の交流を重んじ、彼ら・彼女らの生活を思ってできる範囲での心づくしも行っている。
「親北」と括られてしまえばそれまでだが、仮に「親北」だったとしても祖国・韓国を愛していないわけではなく、国旗が汚されたと怒りを覚え、海外旅行に行ったときにはさみしくなって太極旗を書いて壁に貼っていたというくらい、国を愛しているのである。
日本ではどうしても人道支援や弱者救済は左翼的で国旗国歌を毛嫌いする、一方右翼的な人は国旗国歌を重んじるが、弱者や政治的に対立している国の住人そのものにも厳しいという傾向がある。
つまり、左派は「他者を愛し、国を嫌う」、右派は「国を愛し、他者を嫌う」のだ。
だが、著者のように「他者も国も愛す」ことは十分可能なのではないか。
韓国政局・社会の大変な混乱もあり、来年以降の朝鮮半島の動向は厳しさを増すことだろう。しかしその中に確かにある朝鮮半島の人々の暮らしにも思いを馳せたい。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。