労働者人気幕上がりのチョコパイ
開城工業団地と言えば、「チョコパイ」が通貨のような価値を持っていると報じられたことがあった。これについては、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)に詳しい。
北朝鮮の一般市民がほとんど目にすることのない、韓国のチョコパイ。低価格で高カロリーのこのお菓子を、一部の企業が労働者におやつとして配ったことで人気を博し、残業した労働者にも配られるようになっていったという。
ただ、通貨のように使われたという表現は正確ではなく、「全員平等に配るべきチョコパイの不足分を、金銭で補っていた」という方が正しいようだ。
ここでもやはり、人々はチョコパイをその場で平らげるのではなく、大事に持ち帰る人が多かったことが指摘されている。おそらく家族と分け合ったのだろう。
『北朝鮮に出勤します』には給食の内容も書かれていて、ホシスケトウダラのスープやイカの炒め物など、胃袋を刺激する記述は多い。ただ写真はないため、どのような食べ物なのかは想像を巡らせるよりほかない。一方で『北朝鮮の食卓』はカラー写真が豊富で、眺めているだけでも面白い。具がないチヂミの写真には驚かされた。
日本ではガチ中華ブームが起きているが、「ガチ北食ブーム」は北朝鮮に対する経済制裁が解かれない限り難しいのだろう。
韓国人の「愛国心」
さて、『北朝鮮に出勤します』を読んでいると、確実に保守派の心に刺さると思われる記述に出くわす。著者のキム・ミンジュ氏が、北朝鮮の労働者から「南にはいいものはない」「我々の方が優れている」などとするマウントを取られ、怒りと悲しみを覚える場面だ。そこで著者はこのように述べている。