総裁選公約を反故にした岸田総理
さて、現在の岸田内閣に目を転じると、岸田総理は2021年9月の自民党総裁選における公約で「国際人権問題担当の内閣総理大臣補佐官」設置を訴え、政権発足時に中谷元・元防衛相を任命した。これまで中国の人権問題は安倍元総理を中心とした人脈を中心に動いてきていた。下村議員(チベット)、古屋議員(ウイグル)、高市議員(南モンゴル)と、3人の議連会長とも安倍元総理の側近と呼ばれてきた方々だ。これまで岸田総理が中国の人権問題に関わってきた記憶は私には全くない。それが総裁選において突如として公約として打ち出し、大変な反響を呼んだ。保守派の期待を一身に集めて総裁選に打って出た高市議員のお株を奪う痛烈な一打だったと思う。急に打ち出したから悪いというのではない。良いことは良いとして評価したい。岸田政権において初めて設置された役職であり、画期的だと大きな期待も集めた。
だが、2022年8月の内閣改造において、何の説明もないままにポストそのものが無くなってしまったのだ。もちろん、チベット、ウイグル、南モンゴル、香港などの国際人権問題が解決したわけでもなく、総理補佐官設置により何か新しい法律(日本版マグニツキー法)などが作られたわけでもない。何か成果があがって区切りがついたというようなものは、筆者が考え得る限り特に存在しない。内閣総理大臣補佐官は法律の規定で5人までしか置けないことから、国際人権問題は特に重視する必要がないと判断して他の問題を優先した、と言われても仕方がないだろう。総裁選公約を任期途中で反故にした形であり、中国による弾圧下にある諸民族をはじめ、支援にあたってきた人々に大きな失望を生んだ。あの総裁選時のアピールは一体何だったのだろうか。
中谷・元補佐官(元防衛相)はポストの復活を訴えているとのことだ。岸田総理は今年9月に行われる自民党総裁選での再選に意欲を持っていると報じられている。岸田総理は安保3文書改訂とそれに基づく防衛力増強や原発再稼働などの良い政策も進めてきており、その点は高く評価している。だが、再選を狙うのであれば、前回の総裁選公約がなぜ途中で反故にされたのかの説明をまずは求めたい。
1985年福岡県生まれ。フリーチベット福岡代表。ランダムヨーコとして知られている。関西外国語大学英米語学科卒業。政治と歴史に関するYouTubeチャンネル「randomyoko2」の登録者数は5万人を超え、800万回以上視聴されている。著書に『新・愛国論』(桜の花出版)。英語での論文がジャパン・フォワードに掲載されている他、Foxニュース、CNN、BBC、CBS、ラジオ・フリー・アジア、サウスチャイナ・モーニングポスト、ブライトバート、チベットテレビなどの多数の英語メディアにおいて、日本人コメンテーターとして発言が紹介されている。夫は石井英俊(自由インド太平洋連盟 副会長)。