ロシア外務省から激烈な抗議|石井英俊

ロシア外務省から激烈な抗議|石井英俊

「日本は報復措置を覚悟しろ!」――ロシア外務省はなぜ「ロシア後の自由な民族フォーラム」に対して異常ともいえる激烈な反応を示したのか。


それぞれの話を聞けば聞くほど、歴史や現在の状況は全く違っている。全てをここで述べることは出来ないが、1人の人物、1つの独立運動をまず紹介したい。

イングリアの独立運動家デニス・ウグリモフ氏(自由イングリア社会政治運動代表)。イングリアと聞いて、それがどこにあるのかすぐにピンとくる日本人はまずいないだろう。私ももちろん知らなかった。しかし、どこにあるかを聞いて、大変驚かされた。何と、サンクトペテルブルグとその周辺地域のことだというのだ。私はあまりにも驚いてウグリモフにすぐに聞き直した。「あなたはイングリアの独立を訴えている、つまりサンクトペテルブルグをロシアから独立させようとしているのか」と。するとその通りだと言うのだ。これがどれほどインパクトのある話か、お分かりいただけるだろうか。

まず、そもそもサンクトペテルブルグとは、あのロシア帝国の首都だったのだ。ロシア革命の前まで、つまりモスクワが首都になる前まで200年にわたって首都だった街だ。サンクトペテルブルグはロシアそのものではないのか、とまず驚いた。そしてすぐに気づいたのだが、サンクトペテルブルグはプーチンの生まれ故郷だ。プーチンの生まれ故郷がロシアから分離して独立したら、もはや何が何だかわからなくなってしまう。その瞬間は思わず吹き出して笑ってしまったが、本人はいたって本気なのだ。

「プーチンはサンクトペテルブルグが生んだ最悪の男だ。俺がこの手で決着をつけないといけない」と真剣そのものの目でウグリモフは言った。

ウクライナ軍義勇兵に加わる準備

ウグリモフ氏

サンクトペテルブルグと聞くとロシア帝国の首都としか思い浮かばないのだが、歴史を聞くと、18世紀にロシア領になる前はスウェーデン領だったとのことだ。ロシア革命のときに一時独立したこともあるという。だから、そもそもはロシアではないのだと言う。しかも更に話が複雑であるのは、イングリアというのは一つの民族による地域ではなく、様々な民族が入り混じっている地域とのことだ。イングリア・フィン人などもいるが、イングリアの独立運動とは、民族運動ではないと言う。イングリアとは政治的な地域概念であり、ここはロシアではないという思想なのだ。

例えば、チベットやウイグルの独立運動であれば私たちにも意味がわかりやすい。チベット人もウイグル人も明らかに中国人ではない。民族自決を求め、民族独自の独立国家を求めるのはごく自然なことだ。ロシアからの分離独立を求める運動も、チェチェン人やブリヤート・モンゴル人などのように民族運動であることが多いのだが、このイングリアの場合は事情が全く異なっている。繰り返しになるが民族運動ではないのだ。

では実態のない概念的な架空のものかと言うとそうではない。実はフォーラムでもウグリモフは発言の中で少し触れたのだが、イングリアの独立を求めて運動を行っている人々で義勇軍を結成して、ウクライナ軍の外国人部隊に加わる準備を進めているという。まずは小隊(30人規模)を結成するという。今月(8月)中にもウクライナに入り、具体的な話を進めようとしているとのことだ。しかもウグリモフ自身がその義勇軍に入るという。

ウグリモフは実は日本の弓道も体得しており、いかにも武芸者といったいでたちなのだが、「自分が行かなければ、他人を誘うことなど出来ないだろう」と当たり前のことであるかのように言う。さらっと言うが、これから戦場に行くということだ。そして、仲間と共に実戦経験を積み、さらに仲間を募り、引いては将来の戦いに備えようと考えているのだ。

プーチン体制を揺るがす好機

関連する投稿


チャーリー・カーク暗殺と左翼の正体|掛谷英紀

チャーリー・カーク暗殺と左翼の正体|掛谷英紀

日本のメディアは「チャーリー・カーク」を正しく伝えていない。カーク暗殺のあと、左翼たちの正体が露わになる事態が相次いでいるが、それも日本では全く報じられない。「米国の分断」との安易な解釈では絶対にわからない「チャーリー・カーク」現象の本質。


日本人だけが知らない「新型コロナ起源説」世界の常識|掛谷英紀

日本人だけが知らない「新型コロナ起源説」世界の常識|掛谷英紀

新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所で作られ、流出したものであるという見解は、世界ではほぼ定説になっている。ところが、なぜか日本ではこの“世界の常識”が全く通じない。「新型コロナウイルス研究所起源」をめぐる深い闇。


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


8647―「トランプ暗殺指令」が示したアメリカの病理|石井陽子

8647―「トランプ暗殺指令」が示したアメリカの病理|石井陽子

それはただの遊び心か、それとも深く暗い意図のある“サイン”か――。FBIを率いた男がSNSに投稿した一枚の写真は、アメリカ社会の問題をも孕んだものだった。


ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパに君臨した屈指の名門当主が遂に声をあげた!もはや「ロシアの脱植民地化」が止まらない事態になりつつある。日本では報じられない「モスクワ植民地帝国」崩壊のシナリオ。


最新の投稿


【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは  金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは 金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【徹底検証!】フェイクだらけの「石破辞めるな」報道|楊井人文【2025年11月号】

【徹底検証!】フェイクだらけの「石破辞めるな」報道|楊井人文【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『【徹底検証!】フェイクだらけの「石破辞めるな」報道|楊井人文【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


救急隊員が語ったラブホテルのやばすぎる怪現象|なべやかん

救急隊員が語ったラブホテルのやばすぎる怪現象|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!信じるか信じないかは、あなた次第!


日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】

日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】

【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。