「安倍元首相LGBT法成立を推進していた」というウソ
LGBT推進派の中には、「生前の安倍氏はLGBT法に賛成していた」と主張する者もいる。その根拠として彼らが挙げるのが「第2次安倍政権下でLGBT法案を考える特命委員会が設置された」ということである。
しかし、私は特命委設置の段階で、安倍氏からその本当の意図を詳しく聞いていた。
「左翼側の本当の狙いはLGBに対する理解増進ではなく、T=トランスジェンダーへの差別禁止だ」
「差別禁止を盛り込むことで政府と全国の自治体に『差別禁止委員会』を作らせ巨額の税金を投入させる。さらに差別禁止を元に皇統の男系男子継承を始めとする日本の伝統文化を破壊しようとする」
「だから、彼らが絶対に飲めない『差別禁止を含まない自民党案』を固めてしまえば、超党派協議はまとまらず結果として法案は成立しない」
「LGBT法を成立させないために、自民党案を作らせるんだよ」
しかし表向き「成立しないとわかっている法律案を作れ」とは指示できないから、安倍氏は人によって真意の滲ませ方を使い分けていた。そこを誤解して「安倍さんは法案に賛成の立場だった」と思っている人がいる。
この傾向が顕著なのが、LGBT当事者だ。
安倍氏は2005年に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の座長に就任して以来、長年にわたってLGBT当事者や関係者との面会を重ねてきた。
民放のアナウンサー出身で旧民主党で参議院議員を務めていて松浦大悟氏もその一人だ。
2017年にゲイであることをカミングアウトした松浦氏から初めて話を聞いた日の夜、安倍氏は私に電話をかけてきてこう述べた。
「松浦さんはLGBT問題を大変深く真剣に考えていて感銘を受けたよ」
松浦氏はLGBT当事者として、差別禁止条項に潜む危険性を早くから指摘し、「性的指向や性自認を理由とする差別を許さないとなれば、男性器を持った人物の女性トイレ使用に懸念を示すこと自体すら差別と断罪されてしまう」「結果として、逆にLGBT当事者への差別が広がりかねない」と主張していた。
そして安倍氏との面会で、「キリスト教文化圏のような激しい同性愛差別は日本にないから、あえて法制化する必要はない」「急進的な運動を日本で展開しても分断を生むだけじゃないか」との意見で一致したという。
ところが松浦氏のような人ばかりではない。LGBT当事者の中には、安倍氏の死後「安倍氏は法案の必要性を理解し賛成していた」と主張し、私の記事を「ウソ」「捏造」と悪様に罵倒する者もいる。
しかし今となっては、安倍氏が彼らに何を伝え、それを彼らがどう受け止めたか、もはや検証のしようがないから、私は反論もせず放置していた。
ところが、一周忌のタイミングで思わぬところから、安倍氏がLGBT当事者に対しても「日本にはLGBT法は必要ない」と明言していたとの証言が飛び出した。
発言したのは他ならぬ安倍昭恵夫人である。 恣意的な引用を防ぐため、一周忌の記念式典での昭恵夫人の当該発言を全文紹介する。
最後に私が主人に頼んだのがLGBTの友人に会ってくれということでした。(LGBT理解増進)法案のことで私はLGBTの友人がたくさんいるのでいろいろと批判の声がありました。
主人にそれを伝えて直接話を聞いてもらえないかといったところ、主人はいいよと言って一緒に食事をしてくれました。食事をしながら、飲みながら、彼らの話を熱心に聞いて、一つ一つの課題に対して、法律にしなくても、これはこういう解決方法があるんだと。日本は昔から差別をするような国ではないんだと、議論を重ねて彼らは大変、喜んで納得をしていました。
どんな人ともきちんと話をして、そして解決を見いだしていくという主人の姿に、私は本当に感謝をし、また尊敬をしていました。