「真の危機」は政官一体でなければ乗り越えられない
官僚といえば、古くは「ノーパンしゃぶしゃぶ」問題が想起され、少し前にも「居酒屋タクシー問題」が取りざたされるなど、「思いあがったキャリア官僚たちが、国民そっちのけ、政治家さえも見下し、自身の出世と省益だけを優先させている」という官僚亡国論が優勢だった。ある意味、日本が真の危機にさらされていなかったからこそ、これで済んでいたということなのかもしれない。
しかし現在はどうか。もちろん問題のある官僚は現在もいて、例えば経済産業省の若手官僚がコロナ給付金を不正受給して逮捕された例があった。また本書でも政治に対する警戒心をあらわにする厚労官僚のエピソードなどが語られる。
だが今後は、台湾有事をはじめ、真の危機が迫る。だからこそ、官邸主導、政治主導が求められるようになったのだ。その時、官僚のモチベーションはどうなるのか。結局のところ兼原氏のこのコメントが、官僚という仕事のすべてを物語っているのではないだろうか。
官僚になる人は、国を動かすようなやりがいがある仕事をしたくて役所に来ているのです。金儲けをしたかったら外資に行ってますよ。安い給料で遅くまで働いているのは、民間ではとてもできないような大きい仕事ができるからです。それをやってくれるリーダーが来たら喜んでついていきますよね。
当のリーダーの側も、スタッフたる官僚たちを信頼しているとなれば生まれる力は何倍にもなろう。再び安倍元総理のインタビューを引く。
第一次政権時の元秘書官などの官僚たちが)自らの「役人人生」における出世や目標を捨てて、「終わった」と言われていた私にアドバイスを送り続けてくれました……なぜそこまでの信頼関係を築くことができたのか。それは「国のために尽くしたい」という信念を共有していたことはもちろんですが、私自身が彼らを心から信頼していたことも理由の一つでしょう。自分を心から信頼してくれない人のために心血を注いで働くことはできないのではないでしょうか。(『プレジデント』同号)