危機意識が低い政治家と世論
もちろん官僚については各省が省益ばかりを考えて横の連携が全くない縦割りの問題も、いまなおある。しかし「いざという時に機能しない組織」が存在する本当の理由は、官僚自身の問題もさることながら、政治の舵取りや組織のあり方、さらには世論から生じている面もある。
例えば危機管理の問題。官僚ではない立場で本書に参加している朝日新聞の曽我氏が言うように、自民党はもちろん野党の代表選で「この人が将来有事の際にどれくらい能力があるか」という観点で報道がなされるかといえば心もとないし、国民も関心を持たない。
「実のところ、普通の政治家は有事で自衛隊員が死ぬなんて思っていない」と兼原氏が言えば、防衛官僚の高見澤氏は「防衛大臣や外務大臣をやった政治家の中にも、『俺はそういう話は怖いから聞かない』なんて言う人がいます」、とサラリと恐ろしいことを指摘する。
身内に自衛官がいるものとしては聞き捨てならないが、実際、「自分の決断の誤り一つで、自衛官、あるいは国民が命を落とす」とのリアリティをもって政務に取り組んでいる政治家の方が少ないのだろう。無論、それは政治家だけでなく、官僚、メディア、ひいては国民も同罪かもしれない。
その中で、曽我氏が次のように述べているのは注目したいところだ。
我々新聞記者が法律論を展開する時って、どうしても「歯止め」だったり「権力の暴走を止める」ほうから立論していくんです……もちろん権力の暴走を監視し歯止めをかけるうえでは必須の議論ですが、それだけだと現実的な安全保障議論はなかなか前に進みません。
全く同感なのだが、こうした指摘に同意する新聞記者がどの程度いるのか、不安に思うのも確かだ。