告発から約1カ月後、王の会社は、宛さんの告発についての調査結果を発表した。
それによれば、宛さんの指摘したなかで、人身事故の虚偽報告や公費の利息の着服は確認できなかったが、王が出入り業者から金を受け取っていた事実はあった。その件について、王はすでに国家機関に自首したという。
この調査は、会社の上部組織にあたる国営企業グループから「新たな手がかり」を得て、それを「重視した」としている。つまり、上からの圧力によって動いたわけだ。宛さんの告発は無駄ではなかった。
中国で、権力を持つ共産党員や公務員は体面を整え身内を守るために、往々にしてその立場を利用して“不都合な事実”を押さえ込もうとする。その傾向は中央から地方、中心から末端に行けば行くほど強い。戴さんや宛さんが実名を晒したのは、名も無い庶民の声として葬り去られてしまわないためなのだ。
妻や元妻が暴露した「乱れた医学会の下半身」
同年3月下旬から、まるで流行のように相次いだのは、医師に対する告発だった。いずれも乱れた下半身の暴露、告発者は妻や元妻だった。
重慶市の34歳の女性看護師は、白衣姿でカメラの前に立った。同市内の別の病院に勤める肝胆外科の専門医である夫が、院内で医薬品を扱う担当者と不倫しており、キックバックをもらっていると暴露した。
彼女は、2歳年下の夫が学生の頃から経済的にも支えてきた。にもかかわらず、夫が順調にキャリアを重ねていくうちに、夫の両親も「息子の結婚は早すぎて、嫁は息子に釣り合わない」などと考え出したらしく、彼女に冷たく当たるようになった。
彼女は、過去にも夫のキックバックの疑いを病院に訴えたが、それを知った舅から腹を蹴られ、当時、身籠っていた赤ちゃんを流産してしまった、などという酷い仕打ちも受けていた。
重慶の看護師の告発から4日後、河北省の大学病院で神経外科を務める医師を告発したのも妻だった。夫が職権を利用して多額のキックバックや物品を受け取っているうえ、愛人と結託して夫婦間の共同財産も奪おうとしているなどと訴えた。
いずれも、告発を受け調査が開始された。
これらに続いて寧夏医科大学総合病院の医師を糾弾したのは、別れた妻だった。DVや多数の看護師との不倫関係に加え、キックバックや医薬品を転売している疑いを暴露した。
これに対し、元夫の医師側も自撮り映像で反論。妻のほうの不倫が原因で離婚に至ったが、彼女が裁判所による財産分与に不満で、自分を誹謗して金を脅し取ろうとしている、などと主張した。医師の両親と名乗る高齢の男女も動画で、離婚以前の嫁の悪妻ぶりを涙ながらに並べたて、息子を擁護した。
こうなると、単なるこじれた離婚騒動の延長戦かもしれないが、病院側は医師の不倫やDVについて事実と認め、他の問題についても調べを進めると回答している。