中国で医師の社会的立場は強い。診察を受けるためには、人々は長い順番待ちを覚悟しなくてはならない。そんな状況だからか、医師への袖の下が常態化している憤懣はよく聞いた。
金や地位があるところには、色や欲が蠢く。医師になるには必ずしも共産党員である必要がないから、不倫だけなら党の規律違反の対象にならない者もいるかもしれないが、キックバックや横領の事実が明らかになれば、当然、刑事罰からは逃れられない。
共産党や官僚組織と同様、権威的な組織である病院も体面を繕うため、隠蔽体質がある。分かりやすい例は、新型コロナウイルス感染の発生に気づき、いち早く警鐘をならした武漢の李文亮医師への対応だ。李医師は、情報を外に漏らさないよう釘を刺されたうえ、処分された。読者の記憶にも刻まれているだろう。
本稿では触れないが、同じような構図にあるアカデミズムにおいても実名告発が相次いでいる。
「夫に殺される」著名人による実名告発
市井の女性による上司や夫への告発に続き、なんと今度は著名人による実名告発が話題をさらった。 「私は相手と別れて、しっかりと生きていきたい。でも、離婚証を手にできる日まで生きていられるかどうか、分からない」
すっぴんながらも端麗な女性が、やはり身分証を胸の前に掲げて涙ながらに訴えるその動画を見た時、思わず女性の顔を二度見して確認してしまった。
なぜなら、女性は中国でライブ配信などでブレイクした人をさす「網紅」の代表的人物の一人で、私自身が過去に密着取材した徐大宝(身分証の本名は徐語瞳)さんだったからだ。中国版SNSウェイボーでは、この時でも72万人のフォロワーを抱える。
34歳になった徐さんが、泣いて赤くなった鼻を啜りながら訴えたのは、5歳年下の夫から受けたDVの実態だった。
結婚から1年を待たずして、四度の激しい暴力を受けたという。まぶたやが青黒く腫れ、白目部分が出血していると見られる画像もあった。
ある時は、首を押さえられたまま顔を殴られた。顔を枕に押しつけられ失神したこともあるといい、夫に殺される可能性さえ仄めかす発言をしていた。
「もし私が突然失踪して音信不通になったら、お願いだから警察に通報してください。もし私に万一のことがあったら、絶対に自殺ではありません」