“習近平帝国”中国でSNS「実名告発」が急増のワケ|宮崎紀秀

“習近平帝国”中国でSNS「実名告発」が急増のワケ|宮崎紀秀

中国で、自らの本名を明かし、職場の上司から受けた性暴力などを告発する女性が相次いでいる。なかには、妻が夫の不倫や不正行為を暴露するケースもある。なぜ、女性たちは実名や素顔を晒してまで告発に走るのか。そこからは現代の中国社会が抱える病理が垣間見えた。


本性はDV男だった

私が徐さんを取材したのはこの6年前、彼女はまだ28歳、独身だった。彼女はもともとペットのトリマーで、宣伝のつもりで当時流行り出したばかりのライブ配信を始めたところ、大ブレイクしたのだった。  

ドラマや映画への出演も果たし、移り住んだ北京の高層マンションのクローゼットには、ブランド品がひしめき合っていた。幼い頃に抱いた女優になるという夢を「ライブ配信が叶えてくれた」と目を輝かせて語る徐さんは本当に嬉しそうで、まさにわが世の春を謳歌する、という体だった。  

その時、恋愛についてはこう語っていた。

「以前は、少しお金を使ってくれるような高級なサラリーマンでも満足したけど、いまはそうではなくなりました。良くないことかもしれないけど、心理的な変化です。本音を言うと、いまはボーイフレンドを探すのが本当に難しくなりました。どんな人が自分に釣り合うのか、友達を選ぶようになりました」  

こう記すと嫌味な女に思えるかもしれないが、成長著しい中国において、明日は今日よりも明るいと信じ切ることができる若者らしい発想だった。生活水準や交友関係の劇的な変化をポジティブに享受し、それに伴い、好みの男性の基準の変化を悪びれず話していた彼女は、むしろ正直すぎるくらい素直だった。  

そんな徐さんが選んだ夫は、もともと彼女のファンだったというハンサムな実業家だった。付き合って数カ月後の電撃婚だったが、夫の本性は不幸にもDV男だったわけだ。  

徐さんの告発に、夫の側も反論した。殴った事実については言い訳の余地はないと潔く認めたが、諍いの原因は、徐さんが結婚前や結婚後にも複数の男性と関係を持っていたためなどと釈明した。最も激しい暴力を振るったのは、突然帰宅した際に、使用済みの避妊具を見つけたからだという。  

それが事実だとしても、妻への暴力が許されるわけではない。

ネット民は冷ややか。理由は彼女の「ちょっとイタイ過去」

かつての輝くような笑顔が、あざだらけの浮腫んだ顔に変わったのを目にすると心が痛んだが、意外にも一部の中国メディアやネット民が冷ややかなのは、彼女の“ちょっとイタイ過去”にも理由がありそうだった。  

彼女には、以前にネットを通じて知り合ったオーストラリアに住む華僑の男性との“恋バナ”があった。若くて裕福と思った男性にバリ島まで会いに行ったが、現れたのは事前の話とは違って背の低い中年男だったという。  

それでも金持ちには変わりないと思い、男性と数日間をともにして肉体関係も持ったが、結局、男性は裕福でもなく騙されただけと分かった。彼女はそんな話もライブ配信のネタにした。  

カンヌ映画祭に中国国旗、五星紅旗をあしらったドレスで現れたこともあった。中国では多少有名でも国際的には無名の彼女は招待されたわけでなく、押しかけて行ってレッドカーペットを歩いたとも言われた。本人は話題作りのつもりだったのだろうが、中国では「国旗を侮辱した」などの反感を賞賛より多く買った。  

もともと配信のアクセス数を稼いでスターへの階段を登った芸能人ゆえに、売名行為ではないかと疑う声さえあり、どうも彼女の旗色は悪い。  

権力者への糾弾ではなく、痴情のもつれを実名告発してしまった彼女の誤算かもしれないが、あっという間にスターに上り詰め、次には一気に夫のDVに苦しむ不幸な女性に転じてしまうジェットコースターのような人生も、そのプライバシーをも常にSNSに上げ、ネットの影響力を満身に受けてきた彼女の生き様も、いまの中国の一面を象徴している。

12年前に指導教官だった教授を告発

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