【読書亡羊】「500円の節約」と「500億円の節税」が共存する日本経済の現状 小林美希『年収443万円』(講談社現代新書)、大森健史『日本のシン富裕層』(朝日新書)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


「国家のメンバーを助けるために」

「なぜ『日本』に税金を納めなければならないのか」――その一つの答えとして、福祉や相互扶助を支えているのはナショナリズムだという指摘がある。

ナショナリズムは近代的福祉国家の確立にも貢献している。相互義務と政治的運命を共有しているとする意識が、国家メンバーという概念を一般化し、困難な時には、まったく見知らぬ人も国のメンバーとして助けるべきだという概念を育んだからだ。
(『フォーリンアフェアーズ』2019年3月号掲載、コロンビア大学アンドレアス・ウィマー教授「国家を支えるナショナリズム ――必要とされる社会契約の再定義」)

日本では、福祉を重んじる人はナショナリズムを否定し、ナショナリズムを肯定する人は福祉を軽んじてきた。誰も幸せになれないこの悪循環と無意味な対立は早期に解消すべきだろう。

「国」であれ「社会」であれ、呼び方はそれぞれの好きでいいが「自分もその一員であり責任を負っている」という意識を高める以外、現状を変えられる要素はないのではないか。

梶原麻衣子 | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/712/

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

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