仏独の本音
また、外交の枠組みでは、ロシアをどのようにしてヨーロッパの国際秩序のなかに入れていくか英米と仏独などEU主要国の齟齬が大きすぎた。仏独はプーチンという強力な指導者がいる間に米国・EU・ロシアの話し合いでWin-Winの関係を構築したかった。安倍政権がプーチン政権のうちに領土問題を可決しようとしたのと同じ発想だ。
ところが、バイデンなど米民主党はロシアとの取引を嫌がるし、トランプを代表とする共和党はロシアとの二国間で仕切りたがりEUを関与させたがらない。どちらの政権も仏独がロシア、ウクライナと四か国でまとめたミンスク合意の履行を後押しせず、プーチンがしびれを切らして大暴発したのが今回の紛争だ。
いまでも、ポーランドやハンガリーは、極右政権で(ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相はマクロンから反ユダヤ主義者と批判されている)、何かとEUの団結を乱している。今回もポーランドは英米と組んで戦争を煽り、逆にハンガリーはロシア寄りで制裁に穴を空けている。
ウクライナなど入れたら、この両国以上に勝手なことしてヨーロッパの結束を乱すだろうから、仏独にとっては、ロシアとの関係を修復し、ウクライナを緩衝国として中立化しつつ、EUには加盟させずに連携を深める方策を模索したいというのが、本音だろう。
これはアジアにおいても教訓となる話である。
これまで、日本は米中二国のあいだにあって、二大国で勢力圏を分割支配されることなどさせないように、安定的な枠組みをどう構築していくかオーストラリアや東南アジア諸国と協力して取り組んできた。
外交能力が問われることになるだろうが、政治体制としては、現在の与党の枠組み、さらには、維新や国民民主党も巻き込んだ政治安定が続くとすれば、日本はその主導権をとりやすい立場にある。
1951年滋賀県大津市生まれ。東京大学法学部を卒業後、通商産業省に入省。 ENA(フランス国立行政学院)留学。 国土庁長官官房参事官、通商産業省大臣官房情報管理課長 などを経て、評論家、テレビコメンテーター、作家として活躍。 現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授。 著者に、『歴代総理の通信簿』(PHP新書)、『「反安倍」という病 - 拝啓、アベノセイダーズの皆様』 、『「立憲民主党」「朝日新聞」という名の偽リベラル』(以上ワニブックス)『中国と日本がわかる最強の中国史』 (扶桑社新書)など多数。