欧州の極右政党は “日本モデル”に学べ!|八幡和郎

欧州の極右政党は “日本モデル”に学べ!|八幡和郎

フランスの大統領選挙決選投票で、中道派で現職のエマニュエル・マクロン大統領が、極右のマリーヌ・ルペン候補を破って当選した。フランスに限らずヨーロッパの政治事情に日本人は疎い。この大統領選挙の意味、ヨーロッパ政治の今後、八幡和郎氏が徹底解説!


ルペンと日本の保守派の違い

フランスでは大統領選挙の直後に総選挙が行われるが、前回はマクロン新大統領への期待からマクロン支持派が圧勝し、選挙後に「共和国前進」を結成した。第二党は共和党で、社会党など左派は惨敗、国民戦線は全体の二%弱の議席しかとれなかった。
 
今回の選挙の構図は最終的なものでないが、「共和国前進」が「再生」と党名を変えて中道派や共和党分離派(フィリップ前首相ら)と組み、左派では「不服従のフランス」、社会党、共産党、環境派が協力する。社会党内に反EU・反NATOの「不服従のフランス」と手を組むことには反対も多いが背に腹は替えられない。
 
こうなると共和党と国民連合が保守連合で結びたいところだが、共和党内ではルペンへの拒否感が強いので踏み切れないだろう。現時点での予想では、マクロン派が過半数を確保出来るかは微妙だが第一党となり、左派が第二党となるとみられている。
 
左派は共産党まで含めて選挙協力するのに、右派はバラバラだ。その結果、半年前には第一党になるという予想もあった共和党は現状議席を維持できず、国民連合は議席を伸ばすがたいしたことはないと予想される。
 
さすがに馬鹿らしいと、ルペンがこれまでよりさらに中道化することでドゴール派とルペン派の協力が少しでも動く可能性はまったくないわけではない。
 
ここで、ドイツの政局に目を移すと、二〇二一年九月の選挙の得票率で、社民党が二六%、緑の党が一五%、自民党が一二%で、この三党で連立与党を組んでいる。第二党はキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)で二四%。
 
このほか、極右とされるドイツの選択肢(AfD、一〇%)と東ドイツ与党の残存勢力と社民党左派が組んだ左翼党は五%だが、この二党は反体制的だとして連立の相手からは排除するのが暗黙の了解になり、大連立もたびたびである。
 
だが、フランスでもドイツでも、極右政党が安定して一〇%~二〇%超の得票をしているなかで、それをいつまでも体制外扱いするのは、無理がある。
 
まして、ウクライナ紛争の影響で経済苦境が深刻化し、戦争に巻き込まれる恐れも増す中でドイツなどでは極右が支持を伸ばすと予想され、その時に矛盾はますます拡大するだろう。すでにイタリアでは極右政党も政権に参加しており、スペインでも地方レベルでは同様だから仏独でもタブー視し続ける理由も稀薄なのである。
 
そうしたときに、もしかすると日本モデルは、ひとつの参考になるかもしれない。つまり、日本には極右的政党がほとんどなく、少し議席をもってもやがて自民党に吸収されてきた。
 
それは、自民党が党内保守派にあまりタブーを設けずに自由に発言させガス抜きさせたり、保守派が望む政策で党内リベラル派の抵抗も少ないものは実現していくことにある。
 
一方で、公明党というハト派的な外交防衛政策と場合によっては穏健ながらも大衆の喜ぶ政策も掲げる連立中道与党があって、ほどほどに折り合いをつけてもいる。
 
フランスやドイツは、この日本モデルを少し勉強してみるとよいのではないか。
 
ちなみに、英国や米国では小選挙区制度による二大政党制が堅固で、極右、極左政党の伸長は難しいが、予備選挙の普及で二大政党の方が却って極右・極左化して別の問題が生じている。ドナルド・トランプやボリス・ジョンソンはヨーロッパ大陸から見れば完全な極右だし、民主党や労働党の左派は議員数以上の猛威を振るっている。
 
予備選挙では中道寄りの候補より、極端に右とか左の過激な党員が熱心に運動したり投票する傾向があるからだ。

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仏独と英米の対立とウクライナ

ウクライナ紛争で仏独の極右勢力は親プーチンだ。一見、不思議に見えるが、これには理由がある。いま西ヨーロッパはご多分にもれずポリティカル・コレクトネスが猛威をふるい、伝統的価値観を攻撃している。
 
ところが、プーチンのロシアではLGBTに対して否定的だし、国家への忠誠が求められ徴兵制も健在だ。伝統文化や宗教も大事にされ、モスクワにはロシア正教の本山で革命によって破壊された救世主ハリストス教会が再建された。
 
ルペンがロシアの銀行から借金をしているのが問題になったが、フランスの金融機関が極右排除のために融資しないのでロシアから借りたのだ。西欧自身がロシアの工作を許す隙を与えている。

フランスは伝統的にロシアと関係が深い。日清戦争後の三国干渉もそうだし、二度の世界大戦の連合国でもある。戦後もフランスは独自の核戦力を持ち米ソの調停者となった。
 
一方、ドイツとの和解を深化させ、それがEU統合に結実した。フランスは狭い地域での通貨統合まで含めた深い統合を主張したが、ドイツは東欧まで含めた広く浅くを好み、妥協して「広く深い統合」が行われ、それにやや無理が生じている。
 
両国とも主導権の喪失を怖れて巨大なロシアを入れることは将来ともに考えてない。ウクライナの加盟も西欧への移民が自由になることなどを嫌って、近い将来には無理と拒否、戦争に巻き込まれるのは嫌なのでNATO加盟も拒否してきた。
 
なにしろ、ウクライナの一人あたりGDPはEU最下位のブルガリア(ロシアと同水準)の三分の一で、人口はその八倍の四千万人もいる。しかし、今回の紛争での犠牲に同情して加盟圧力が強くなるのは避けられない。それ以前にすでに数百万人が西ヨーロッパに難民として来てしまっており、加盟させたら人口の半分くらい移民しかねない。
 
そうなると、辻褄合わせのために、イスラム教徒やアフリカからの難民・移民を排除する圧力が高まり極右政党も勢いづくだろう。
 
穏健派が右派・左派を問わず過度の理想主義に走ったあげく、極右と極左両方のポピュリズムを台頭させてしまった。極右政党のうちルペンのような穏健派を共和党のような中道右派政党が上手に吸収していくことも選択肢であるべきだ。
 

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