日本を守るための“最後のチャンス”|門田隆将

日本を守るための“最後のチャンス”|門田隆将

2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、日本にさまざまなことを突きつけた。いまこそタブーなき議論で日本を守るための手を講じよ!


だが、開戦3日目に、国内の反対デモの勢いと怒りの大きさにショルツ首相は方針を転換。一転、SWIFTからの排除に賛成し、全面的な対ロ制裁に乗り出したのだ。一挙に勝負は決した。ドイツの方針転換で西側の徹底制裁方針が実際に動き出し、いつも“しっかり検討する”だけの情けない日本の岸田文雄政権をも呑み込んだ。
 
開戦当日、大阪の薛剣・中国総領事が「ウクライナ問題から学ぶべき教訓」として勝ち誇ったように〈弱い人は絶対に強い人に喧嘩を売ってはいけない。仮に強い人が後ろに立って応援すると約束してくれてもだ。人に唆され、火中の栗を拾ってはいけない〉とツイート。

台湾に中国が侵攻しても弱い日本は関与してはいけない、たとえ後ろにアメリカがいても、という意味である。

文革で荒野と化した中国のインフラ整備のために必死だった日本。その姿を現地で見ていた私には、いうべき言葉もない。だが大阪総領事のこの驕りをウクライナ人が吹き飛ばしてくれた。
 
ウクライナの抵抗は続き、3月15日現在、まだキーフも持ちこたえている。逆に経済制裁でルーブルは下落の一途、ロシア国債もデフォルト(債務不履行)寸前に陥っている。対話での戦争阻止の難しさと核威嚇の怖さ、そして歯を食いしばって戦うことの大切さをウクライナは私たちに教えてくれた。

しかし、日本では非核三原則すら「議論することは考えていない」と岸田首相。抑止力で平和と国民の命を守る最後のチャンスを日本は失おうとしているのである。
 
同じ敗戦国のドイツやイタリアもNPT(核不拡散条約)の批准国である。三国とも規定に従って独自の核兵器はゼロ。だがドイツとイタリアは国内に米国の核を共有する“核シェアリング”を行い、国民の命を守っている。核武装ではなくシェアリングだ。
 
日本には核の共有に国土を提供することもなく、米国にお願いして、米原子力潜水艦による「核抑止力」だけを共有させてもらう方法がある。もちろん、そのためには憲法も、自衛隊法も変えなければならない。だが「核武装」、つまり核開発・核実験・核保有を日本がするのではなく、ただ「核抑止力」だけを共有させてもらう、という方法である。

非核三原則の「持ち込ませず」が有名無実であることは、政治家も、また国民も、皆、知っている。だが今と同じ状況で「核シェアリングを宣言する」だけで、日本は中国などの核威嚇が効かない国となれるのである。

 核シェアリングではなくとも、今後はINF(中距離核ミサイル)の第一列島線への配備要求も米国から出てくるだろう。しかし、それよりも前に核シェアリングの宣言があれば、土地提供の必要もなくなる。タブーなき議論で、国民の生命、財産、そして領土を子々孫々まで守って欲しいと願う。

(初出:月刊『Hanada』2022年5月号)

門田隆将

https://hanada-plus.jp/articles/187

作家、ジャーナリスト。1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒業後、新潮社に入社。週刊新潮編集部に配属され、記者、デスク、次長、副部長を経て、2008年4月に独立。『この命、義に捧ぐ―台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(集英社、のちに角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。近著に『オウム死刑囚 魂の遍歴―井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり』(PHP研究所)、『新聞という病』(産経新聞出版)がある。

関連する投稿


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

今年の政治における最大のニュースは、10月の衆院選での与党過半数割れであると思う。自民党にとって厳しい結果であるばかりか、これによる日本の政治の先行きへの不安や、日本の昨年の名目GDPが世界第4位に落ちたことから、経済面においても日本の将来に悲観的な観測をお持ちの方がいらっしゃると思う。「先行きは暗い」とおっしゃる方も多くいる。一方で、今年決定したことの中では、将来の日本にとても希望が持てるものが含まれている――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

日米韓の慰安婦問題研究者が東京に大集合。日本国の名誉と共に東アジアの安全保障にかかわる極めて重大なテーマ、慰安婦問題の完全解決に至る道筋を多角的に明らかにする!シンポジウムの模様を登壇者の一人である松木國俊氏が完全レポート、一挙大公開。これを読めば慰安婦の真実が全て分かる!


最新の投稿


【今週のサンモニ】論理破綻な「旧統一教会解散命令」報道|藤原かずえ

【今週のサンモニ】論理破綻な「旧統一教会解散命令」報道|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


大相撲界に噂される「ブラックボックス」|なべやかん

大相撲界に噂される「ブラックボックス」|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!


【今週のサンモニ】潔癖で党総裁になったのに潔癖でなかった石破首相|藤原かずえ

【今週のサンモニ】潔癖で党総裁になったのに潔癖でなかった石破首相|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】悪用厳禁の書! あなたの怒りは「本物」か  ジュリアーノ・ダ・エンポリ著、林昌弘訳『ポピュリズムの仕掛け人』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】悪用厳禁の書! あなたの怒りは「本物」か ジュリアーノ・ダ・エンポリ著、林昌弘訳『ポピュリズムの仕掛け人』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!