ウクライナの悲劇と尖閣集中攻撃の悪夢|山岡鉄秀

ウクライナの悲劇と尖閣集中攻撃の悪夢|山岡鉄秀

ウクライナ人政治学者のグレンコ・アンドリー氏はこう述べている。「もう大きな戦争が起きることはないし、侵略されることもない、と皆信じていた」。だが、ロシアは「まさか」を実行した。NATOもアメリカも助けに来なければ、圧倒的な敵の軍事力に単独で立ち向かわなければならない。これが、台湾と日本の近未来の運命である――。


史上最弱のバイデン政権のうちに

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しかし問題は、誰も助けに来なかったという事実である。安全と独立を保障してもらう約束で核兵器を引き渡して軍縮したのに、声高に叫んでも誰も助けに来てくれないのだ。味方のはずの国々は、武器や弾薬を供給するから自分で頑張って戦え、と言う。しかし、抵抗すればするほど苛立つロシアが、より強力な兵器を使用する悪循環に陥る。

なぜ、誰も助けてくれないのか。
それは明白だ。アメリカもNATOも、強い相手、特に核保有国とは戦いたくないのである。
では、国連軍はなぜ編制されないのか。

安全保障理事会の常任理事国が自ら侵略戦争を始めたのだから、お話にならない。国連は完全に機能不全に陥っている。もちろん、ロシアと直接戦うことになれば、第三次世界大戦に発展してしまう危惧があるのは事実だ。

これではっきりわかったことがある。アメリカ、少なくともバイデン政権は、東アジアで中国と正面から戦う気はない。それが明らかになった以上、ウクライナのパターンが東アジアで再現される虞れが高まったと言える。もちろん、ロシアに代わる侵略者は中国であり、侵略される側は台湾と日本だ。

ウクライナとの違いは何であろうか。

台湾はウクライナと違い、遥かに小さな島国だ。しかし、ウクライナ人はまさか全面侵攻を受けるとは思っていなかったのに対し、台湾は中国からの攻撃を現実的な脅威と捉えており、台湾の呉釗燮外交部長は「中国との戦力差は明らかだが、我々は非対称戦を実行する」(2021年10月5日、ABC Australia)と公に述べている。

米台間に安全保障条約はないが、アメリカは台湾関係法を持ち、台湾に軍事顧問団を派遣し、積極的に武器の供与をしている。中国はロシアと同じように、大規模なサイバー攻撃を仕掛けてから弾道ミサイルを撃ち込んでくるだろう。

しかし、台湾を占領するには相当激しい地上戦が予想される。アメリカ軍が直接戦闘に参加しなくとも、マラッカ海峡を封鎖してしまえば、中国の経済活動にも甚大な影響が及び、中国国内の不満と混乱が一気に高まるだろう。世界中から経済制裁を受けるであろうことも今回と同じだ。

したがって、中国にとって台湾侵略は大変なリスクを伴う冒険となるが、ウクライナでロシアが目的を完遂すれば、自分たちも史上最弱のバイデン政権のうちに行動を起こすべきだという誘惑に駆られる可能性は十分ある。いや、すでに計画しているかもしれない。

極めて危ない、尖閣諸島

一方、日本は日米安保条約に基づき、日本中に米軍基地が置かれているので、沖縄を含めた日本本土への直接攻撃は現実的ではない。ここがウクライナと大きく異なるところだ。しかし、そこで極めて危ないと私が考えるのが、尖閣諸島だ。中国が敢えて、尖閣諸島だけに照準を絞って侵攻してきたらどうなるだろうか。

アメリカ軍は絶対に助けに来ないだろう。ウクライナを助けないのに、無人島の尖閣諸島を守るために、アメリカ軍が直接中国軍と戦火を交えて人員を消耗することはあり得ない。

バイデンは、「自ら防衛のために戦わない国のためにアメリカ兵が血を流すことはない」という趣旨の発言をしている。アメリカ政府は、尖閣諸島を日本の領土と正式に認めていないし、紛争地と認識していればなおさら米軍の派遣はない。アメリカの世論も賛同しないだろう。一般のアメリカ人は、尖閣諸島がどこにあるか見当もつかない。

一方、日本の歴代政権は、尖閣諸島が日米安保条約の第5条に含まれることをアメリカ政府に確認しては喜んでいる。日米安保条約第5条とは何であろうか。

第5条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

この5条は一般に、アメリカに日本防衛を義務付けたものと理解されているが、どちらかが攻撃された場合、共通の脅威として共同で対処する、つまり、集団的自衛権を発動すると解釈できる。

したがって、中国の尖閣諸島侵略に際しては、当然ながら日本が自ら防衛努力を行い、アメリカはこれに協力することになる。アメリカが主体的に戦うとか、アメリカが正面で戦うのを日本が後方から手伝うとは書いてない。無人島の尖閣諸島が侵略されても、アメリカは何らかの援助をするのに留まる可能性が高い。

米民主党は、無人の岩礁地帯を守るための派兵や戦闘への参加を否定する論調を国内で拡げ、主流メディアやビッグテック(世界で支配的影響力を持つIT企業群)もそれを拡散するだろう。中国が、アメリカ軍が干渉しない限りアメリカ軍を攻撃しない、と宣言すればなおさらだ。

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