【読書亡羊】米議会襲撃事件の裏と日米の政治家の差 ボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ『PERIL 危機』(日本経済新聞出版社)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


バイデンの「聞く力」は奏功したか

これまで、筆者の一人であるボブ・ウッドワードは米国の歴代政権の内幕を取材してきた。トランプ政権時代も、『FEAR 恐怖の男』『RAGE 怒り』を出版しており、本書は三作目にあたる。

トランプが再選を期す大統領選が焦点となることから、バイデン周辺も取材。トランプ陣営との対比もあってバイデン陣営は「実に良識的」に思えるが、良識があるからと言って国内の問題をうまく処理できるとは限らないことも見えてくる。

例えばコロナ対策では、当初「漂白剤を飲め」などと吹聴したトランプと、問題発生当初から専門家の見解に日々真剣に耳を傾けていたバイデンの「聞く力」が対比される。

だが現状を見れば、「マスクをするか否か」「ワクチンを打つか否か」までが政治理念上の対立を生んでおり、バイデンの大統領就任から一年の間にも、感染者数、死者数ともに増加し続けた。

ワクチン接種を妨害しているのは共和党陣営だとの指摘もあるが、バイデン批判の中には「マスクを無償配布すべき」といった、「アベノマスク」配布政策踏襲を勧めるかのような専門家の指摘もある(在庫をアメリカに送ってはどうか)。

日米ドキュメント作品の埋めがたい差

さて、冒頭、紹介した「米議会襲撃事件」時に起きていた「二本の電話」は、原書発売時に多くの報道機関に取り上げられた。二人の筆者の大スクープである。

なぜこれほど臨場感のある、核心情報をつかむことができたのか。本書の〈読者への覚書〉に、その理由が垣間見える。

描写されている出来事に直接かかわったか、それをじかに目撃した200人以上との数百時間のインタビューをもとに本書は書かれている。ほぼ全員がインタビューの録音を承諾した。

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