「その時」、何が起きていたのか
一年前の、2021年1月6日
本書、ボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ『PERIL 危機』はトランプ支持者たちが米議会を「襲撃」したその場面から始まる。
米軍の制服組トップにあるマーク・ミラー米統合参謀本部議長は、中国人民解放軍トップに電話をかけ、「米国は混乱しているように見えるかもしれないが、100%安定しています」「中国を攻撃する意図はありません」と訴えた。
「トランプが選挙での敗退を避けるため、中国に何らかの攻撃を仕掛け支持率回復を狙うのではないか」
このように中国がアメリカの動向を疑っていたことは、2020年10月時点の機密情報で明らかになっていた。そこへきての議会襲撃。中国だけでなく、ロシアやイランなども不測の事態に備えるべく、警戒レベルを上げていたとされる。
さらに緊迫の場面は続く。ペロシ下院議長とミラーの会話だ。このやり取りも電話を介したものだが、本書では、メモと取材を基に再現されている。
〈「どういう予防措置が使えるかしら」ペロシが聞いた。「精神的に不安定な大統領が軍事的敵対行為を開始したり、発射コードを手に入れて核攻撃を命じたりするのを防ぐのに。この錯乱した大統領がもたらしている緊急事態ほど危険なものはないわ……」
ミリーは答えた。「……統合参謀本部議長の私に確約できるのは、たった一つのことだけです……米軍は武力の使用にあたって、核攻撃であろうと外国における何らかの攻撃であろうと、違法なこと、常軌を逸したことはやらないと、私は110%確約します」
会話からは、トランプ大統領(当時)に対する、強い不信感と警戒がにじみ出ている。
トランプ政権には功績があり、「トランプ的なもの」が生まれた分断の背景には、左派・インテリによる「古き良きアメリカ」を愛する人々への見下した視線があったことも事実だろう。
だが、本書によれば「大統領選に負けたことを理解しながらも、『あなたは負けていない、選挙は奪われたのだ』と吹聴する周囲の人々の世界観に引っ張られ、大統領選陰謀論を煽ってしまった」トランプ大統領は、自らの将来や功績を、自ら葬ったに等しい。非常に残念だが、本書にはその経緯が詳述されている。