最低でも外交的ボイコットを―北京五輪|島田洋一

最低でも外交的ボイコットを―北京五輪|島田洋一

ボイコットと言うと「選手たちが可哀そう」という声が直ちに起きるが、「貴賓席」に陣取る習近平氏への「敬礼」を強いることこそ、選手たちにとって「可哀そう」だろう。有志諸国は少なくとも、選手団の行進を含め、開会式への不参加を決めるべきだ。


米バイデン政権が2022年北京冬季五輪の「外交的ボイコット」を検討中と伝えられる。

五輪の主催者は国際オリンピック委員会(IOC)だが、IOC規則は「開会宣言は開催国の国家元首によって行われる」と定めている。北京五輪の場合、習近平国家主席が行う。

さらに次のような開会式実施細則が続く。

「開催国の国家元首は、スタジアムの入口でIOC会長および当該国組織委員会会長の出迎えを受ける。両会長は、そのあと国家元首を貴賓席のボックスへ案内する」

「選手団は、貴賓席のボックス前を通過する際、開催国の国家元首ならびにIOC会長に敬礼をする」

 行進完了後、各国の旗手はフィールドに残り、国家元首による開会宣言を聞く。続いて「開催国の国歌が演奏される(または歌われる)」

この式典に外国政府高官が参列しないのが外交的ボイコットで、批判的意思表示として最も低いレベルのものである。

米で後援企業に辞退呼び掛け

北京五輪は、国内外で強圧的姿勢を強める中国共産党政権の「党威発揚」のために利用される。私個人は、五輪を1年延期し、主要7カ国(G7)による分散代替開催とする「完全ボイコット」が最適と考えている。

米国でも、下院人権委員会のジム・マクガバン共同委員長(民主)が同様の主張をし、クリス・スミス共同委員長(共和)も「国連ジェノサイド条約はジェノサイドを犯した政府は罰せられねばならないと規定する。IOCと各国関係者には新たな開催都市を見つけるよう、またわが大企業には、ジェノサイド五輪を手助けしたり、スポンサーになったりしないよう強く促す」と踏み込んでいる。

ボイコットと言うと「選手たちが可哀そう」という声が直ちに起きるが、「貴賓席」に陣取る習近平氏への「敬礼」を強いることこそ、選手たちにとって「可哀そう」だろう。有志諸国は少なくとも、選手団の行進を含め、開会式への不参加を決めるべきだ。

過去には、日本を含む65カ国が完全ボイコットをした1980年モスクワ五輪の例もある。注目すべきことに中国もボイコットに加わった。最も先鋭的な反米政権だったイランも、イスラム教国としてソ連軍のアフガン侵攻は許せないと同調した。ならばイスラム教徒ウイグル人の虐待も座視できないはずだ。

モスクワに選手団を送ったものの、開会式でも表彰台でも自国の国旗を掲げず、抗議の意思を示した国も15を数えた。

選手団の開会式不参加も検討せよ

外交的ボイコットは、実はとりわけ日本にとって低いハードルである。今年の東京五輪開会式に中国は国家体育総局長しか送らなかった。「閣僚級」といっても、日本ではスポーツ庁長官に相当するレベルである。外交の相互主義に照らしても、日本が、就任に当たって天皇の認証を受ける認証官(大臣、副大臣、特命全権大使、特命全権公使など)を参列させることはあり得ない。

外交的ボイコットはもとより、次のレベルの「開会式全面ボイコット」に向け、自由主義圏の代表たるG7諸国は指導力を発揮せねばならない。( 2021.11.22国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

すでに衆院の憲法審査会では4党1会派の計5会派が、いま行うべき憲法改正の内容について一致している。現在いつでも具体的な条文作業に入れる状況であり、岸田総理が決断すれば一気に進む。


6月10日施行の改正入管法で一体、何が変わるのか?|和田政宗

6月10日施行の改正入管法で一体、何が変わるのか?|和田政宗

不法滞在者や不法就労者をなくす私の取り組みに対し、SNSをはじめ様々な妨害があった――。だが、改正入管法施行の6月10日以降、誰が正しいことを言っているのか明らかになっていくであろう。(写真提供/時事)


米国を弱体化させるイスラエル甘やかし|上野景文(文明論考家)

米国を弱体化させるイスラエル甘やかし|上野景文(文明論考家)

これまでイスラエルをかばい続けてきたアメリカだが、ここで方向転換した。 これ以上、事態の沈静化を遅らせれば、どんどんアメリカと日本の国益が損なわれる!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


最新の投稿


【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡――なぜ耳を疑う医療事故が相次いで起きているのか。その実態から浮かびあがってきた驚くべき杜撰さと隠蔽体質。ジャーナリストの長谷川学氏が執念の取材で事件の真相を暴く。いま「白い巨塔」で何が起きているのか。


トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

7月13日、トランプ前大統領の暗殺未遂事件が起きた。一昨年の安倍晋三元総理暗殺事件のときもそうだったが、政治家の命を軽視するような発言が日本社会において相次いでいる――。


【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。