感染症対策の強化に向けた投資
内閣が懸命に取り組んでいるワクチン接種の促進やマスク着用の徹底など「感染者数を減らすための取組」は変わりなく大切ですが、「重症者数・死亡者数の極小化」に向けた対策の重点化が必要。軽症から中等症Ⅰの患者対象の治療薬である「抗体カクテル」(カシリビマブ、イムデビマブ)を、早期に幅広く処方できるようにするべきです。
治療薬の処方が可能な場所を「感染症患者を受け入れている有床の医療機関」と「自治体が指定した医師滞在の宿泊療養施設」に限定したままでは、治療薬が効かない段階に病状が進んでしまうので、「治療薬投与後の経過観察宿泊場所」や「移送手段」を確保した上で、総合病院外来の医師、無床の開業医師、患者宅を訪問して下さっている医師の皆様による処方を可能にするべきだと考え、8月上旬から厚生労働省に要請してきました。
容態によっては、中等症から重症用の治療薬「レムデシビル」、中等症Ⅱから重症用の治療薬「バリシチニブ」、重症用の治療薬「デキサメタゾン」の処方も必要です。
課題は、海外企業が開発した「抗体カクテル」「レムデシビル」「バリシチニブ」の供給量。厚生労働省に問い合わせましたが、「いずれも、全世界向けの供給量が限られている中、投与対象となる患者数の見込みに対応できる量の確保に努めているところです」との回答でした。
治療薬やワクチンについては、一刻も早い「国内生産体制」を確立しなくてはなりません。「創薬力の強化」は、エボラ出血熱など死に至るまでの時間が短い感染症への備えとしても、重要な危機管理です。
医療分野の研究助成金の規模は、米国が日本の22倍。医療・創薬分野の基礎研究と臨床研究については、国が「危機管理投資」「成長投資」として大胆に支援するべきです。
また、他の病気の治療薬の中で新型コロナウイルス感染症の治療にも有効だとして製薬会社から承認申請がされている薬がある。「緊急時に新薬を迅速に実用化できる薬事承認制度」の確立を急ぎたい。
感染症患者の宿泊療養施設としてホテルを活用する場合には、国がホテルの本来の営業利益や風評被害に対する十分な補償も行い、「自宅療養者を皆無にする」くらいの取り組みが必要。国が管理する研修施設や都道府県の公的施設の活用も進めるべきです。
また、早期に自らの症状を知り、保健所が迅速に対処方法を判断できるようにするための措置としては、全世帯に1個ずつ、「パルスオキシメーター」(経皮的動脈血酸素飽和度測定器)を配布するべきです。
全世帯ということになると、恐らく国内の在庫では不足しており、相当な生産拡大をしなければなりません。生産協力企業の設備投資に対する財政支援措置は「危機管理投資」になります。新型コロナウイルス感染症が収束したとしても、様々な疾病時に活用できるので、一家に1個の備えは無駄にならないと思う。
また、公務員の増員に対する批判があるのは承知していますが、検疫所や保健所の体制拡充と感染症病床の6割を有する公立病院の維持は、重要な「危機管理投資」です。
コロナ禍によって、飲食業や観光関連産業のみならず、取引先を含め、幅広い産業が深刻なダメージを受けました。事業継続や雇用維持が困難になった事業者も多く、失業や休業によって生活に困窮しておられる方々も居られます。
これまで内閣は、生活を守るための「緊急小口資金・総合支援資金」「住居確保給付金」「子育て世帯生活支援特別給付金」「給付型奨学金」等や、雇用を守るための「雇用調整助成金」「産業雇用安定助成金」「休業支援金・給付金」等や、事業を守るための「地方創生臨時交付金の協力要請推進枠」「一時支援金」「持続化補助金」など、各種支援施策を実施してきました。
今後は、「事業再建や事業再構築(業態転換・新分野展開)に向けた支援の強化」「生活に困窮しておられる方々への支援の強化」のために、大胆な予算措置が必要です。感染症収束後には、買い物、外食、旅行など、我慢していた消費が爆発的に増える「消費急増期」が到来する。その時に経済の担い手となる事業主体が消滅していては話になりません。
むしろ国が手厚い財政支援を行い、地方でも、今のうちに「選ばれる商品・サービス」の準備を行っていただけるような環境を整えることが、中期的に日本経済の回復に資する「成長投資」になるのではないでしょうか。
人材力の強化
「危機管理投資」「成長投資」の成功のためにも、全世代の安心感を創出するためにも、鍵となるのは、「人材力の強化」です。
第1に、実学重視のルートを多様化すること。高専や専門高校の拡充と、実業志向の大学への編入拡大など、進学ルートを増やすべきです。大学でも、最先端の設備を使った人材育成が必要です。
学生が、海外進出した日本企業でインターンとして学べるような取り組みも進めたい。東京大学は、「空気の価値化」をテーマにダイキンと10年間で100億円の連携をしているが、学生50人がダイキンの海外拠点に招かれ、海外ビジネスの最先端を体感している。学生の育成、共同研究、起業家育成を、大学と企業が共同で進めている好事例です。
第2に、学校教育におけるデジタル対応力の強化が必要です。
私が長年にわたって提唱してきた「プログラミング教育」は、ようやく昨年から義務教育課程に導入されました。今後は、AIを活用した多様な分野のイノベーションが期待できるので、「AI教育」の導入を進めるべきです。
AIを理解する上で欠かせない「線形代数」(行列)の、高校数学への再導入も必要であり、大学では、AIを使った商品・サービスの提案やソリューションの提供を行う「AIソリューション・プランナー」を育成することも重要です。
地方では、県立大学、高専、農業・商業・工業高校などでデジタル教育を充実することにより、地域産業振興に繫がります。
第3に、社会人が大学や大学院に入り直す「リカレント教育」だけではなく、社会人が働きながら教育を受け続ける「持続教育」を拡充すること。特に、国際ビジネスに対応できる教育、技術革新のスピードに即応できる教育の充実を期待したい。
第4に、若手研究者のための安定的雇用機会を増やす。
第5に、「フリーアクセスができる教材クラウドの作成」により、様々な事情を抱える方々の学びの機会を増やす。
第6に、生命や財産、健康を守るために、幅広い世代を対象にした「防災教育」「防犯教育」「消費者教育」「投資教育」「情報セキュリティ教育」「食育」「文化・スポーツ活動」を支援する。
第7に、初等中等教育、高等教育、地域学習などの場で、卒業・修了などの節目に必ず「社会制度教育」を実施することを提唱します。
生活保護の申請方法が分からずに亡くなったり、育児や介護の負担に耐え切れなくなったり、生活苦から進学を諦めたりする方が居なくなるように、生活・進学・育児・介護・障碍への支援策など利用可能な施策の周知を徹底することが大切です。