それにしても、という声も聞こえてきそうだ。富坂氏は保守系雑誌にも執筆していた中国事情通であり、さほど激烈な「反中派」ではなかったとしても、客観的・第三者的な、バランスの取れたジャーナリストとしての視点から記事を書いていたのではなかっただろうか。
試しに、ここ5、6年以内に富坂氏が出版した著作を数冊、確認してみたが、「労務所」と呼ばれる施設で行われていた「殴る蹴る」「電気ショック」といった非道な拷問を紹介するものもあった(『中国 無秩序の末路』角川新書)。
『「反中」亡国論』でこの件は引用されていないが、こうした拷問を2013年段階で行っていた中国が、独立派すら含むウイグル族に対して人権弾圧を行っていない、と考える方が難しそうである。あるいは中国の人権意識が変わったというなら、その旨も指摘してほしいところだ。
他には「中国崩壊論」「アメリカが中国を今度こそやっつける」といった安易な風潮が日本の取る道を誤らせる、と言った、ある意味今回の『「反中」亡国論』に通じる主張(『中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由』ビジネス社)もあり、これには同感ではあるのだが、それにしてもここ数年のうちにどうしてこうも中国傾斜がきつくなったのかという疑問は残る。
「これ以上、中国に口を出すと戦争に」は誰の意見か
今回の『「反中」亡国論』が、「筆者自身の思想・考えは別として、中国側から見ると世界や日本はこう見えている、という視点を提供する」と銘打っているのであればいいわけだが、そうではない。
もちろん、中国同様に欧米各国の意見や報道も疑い、「日本」が主体の視点を持つべきである、というのであれば大賛成なのだが、本書は明らかに「中国視点」に大きく傾いている。
それゆえに「他国の人権に口を出し、内政干渉まで行う。それによって戦争を引き起こさないよう、日本は注意すべきだ」という趣旨のあとがきの指摘――つまりある意味で最も筆者の本音がつづられる部分での言及――さえも、「これ以上口を出すと戦争になるぞ」と中国に脅されているような気になる。
それをわかって読む分には得るところが大きいのでぜひおすすめしたいのだが、そうした逆説的な読書をするのには、読む方も小欄のように相当性格が悪いか、あるいは異論を聞かされても読み続けられるくらいの忍耐強さが必要かもしれない。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。