北京ジェノサイド五輪をボイコットせよ|島田洋一

北京ジェノサイド五輪をボイコットせよ|島田洋一

東京オリンピック開催支持を表明したアメリカ。そのアメリカでは、2022年北京冬季オリンピックの開催地変更、さらにはボイコットを求める声が、有力保守政治家を中心に高まってきた。バイデン政権が今後仮に、超党派の支持のもと北京五輪ボイコットを打ち出し、日本が同調を渋った場合、日米関係にヒビが入ることは避けられないだろう。


北京五輪、参加すれば日米関係に亀裂

ただしあとで触れるように、代替開催地の用意にも言及したほうが良かったと思う。モスクワ五輪の前例に照らしても、そのほうがより説得的かつ前向きの議論になるだろう。  

ヘイリーは、バイデン大統領は同盟国にもボイコットへの同調を促さねばならないとし、日本の名前も挙げている。

「冬のオリンピックは、とりわけ人権問題において実績を残してきた自由主義国が占める度合いが大きい。カナダから西欧、中欧、スカンジナビア、さらに日本、韓国に至る国々である」  

そのとおり、陸上でアフリカ勢やジャマイカ勢が活躍する夏のオリンピックと異なり、冬は西欧、北欧、北米、日本が参加しなければ、実質的に単なる「中国・ロシア大会」と化すだろう。  

ヘイリーは同盟国に同調への期待を寄せるだけではなく、強く釘を刺してもいる。

「もしアメリカが人権問題を理由にオリンピックをボイコットすれば、上記諸国は、そうした暴虐な体制を支えていると見られることに二の足を踏むのではないか」  

2019年に出した回顧録でヘイリーは、国連大使としての苦い経験を踏まえ、アメリカが重視する原則問題で背信的行動を取った国々についてははっきり国名を控えておき、しかるべき報復措置を取らねばならない、でなければどこまでも舐められると力説している。  

バイデン政権が今後仮に、超党派の支持のもと北京五輪ボイコットを打ち出し、日本が同調を渋った場合、日米関係にヒビが入ることは避けられないだろう。  

最後にヘイリーは、「自由世界のリーダーなら、あの邪悪な政権にイメージ上の大きな勝利を与えてはならない。アメリカは2022年北京五輪をボイコットしなければならない」と締めくくっている。一切曖昧さのない議論である。

米議会ですでに決議案が提出

このヘイリーの論考は多方面で引用されている。米保守派の最長老格ニュート・ギングリッチ元下院議長もその一人で、ツイッターでヘイリーの論をリツイートしつつ、はっきり北京五輪ボイコットを唱えている(2月28日)。

「中国共産党のジェノサイドと重大な人権蹂躙に鑑みて、アメリカ(そしてわが同盟国たち)は、国際オリンピック委員会(IOC)が開催場所を中国から他に移す決定をしない限り、2022年オリンピックをボイコットせねばならない」  

ここでも、日本を含む同盟国に強く働きかけを行うべきことが示唆されている。  

米議会においても、リック・スコット上院議員(共和党)が中心となり、6人の同党議員を共同提案者として、IOCに対し、2022年冬季五輪の開催地変更を求める決議案が上院外交委員会に提出された。各議員が毎年大量に出す決議案の一つとは言え、この辺りの動きは、日本の国会とスピード感が違う。  

同決議案を出した議員たちのコメントから、注目すべき部分を引いておこう。

「いかなる状況下でも、オリンピックは世界最悪の人権蹂躙国の一つで開催されてはならない」(スコット上院議員)

「中国共産党は中国人民を抑圧し続けている。我々はそれを新疆におけるジェノサイドや香港で見てきた。2022年冬季五輪の北京開催を許すことは、それらを黙認することに他ならず、あってはならない」(ジェームズ・インホフ上院議員)

「中国共産党によるウイグル人ジェノサイドは、中国にオリンピックの開催資格を失わせた」(トム・コットン上院議員)

「ジェノサイドに該当する途轍もない人権蹂躙に積極関与している国が、オリンピックにせよその他の国際的スポーツイベントにせよ、開催国になる栄誉を与えられるなど正気の沙汰ではない」(マルコ・ルビオ上院議員)

「中国共産党の戦慄すべき人権蹂躙の歴史に目をつぶってはならず、五輪のホスト国という地位を付与することで、共産党指導部に褒賞を与えてはならない」(トッド・ヤング上院議員)

イギリス、カナダでもボイコット論

関連する投稿


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


【スクープ!】自衛隊と神戸市が交わした驚きの文書を発見! 自衛隊を縛る「昭和の亡霊」とは……|小笠原理恵

【スクープ!】自衛隊と神戸市が交わした驚きの文書を発見! 自衛隊を縛る「昭和の亡霊」とは……|小笠原理恵

阪神地区で唯一の海上自衛隊の拠点、阪神基地隊。神戸市や阪神沿岸部を守る拠点であり、ミサイル防衛の観点からもなくてはならない基地である。しかし、この阪神基地隊の存在意義を覆すような驚くべき文書が神戸市で見つかった――。


速やかなる憲法改正が必要だ!|和田政宗

速やかなる憲法改正が必要だ!|和田政宗

戦後の日本は現行憲法のおかしな部分を修正せず、憲法解釈を積み重ねて合憲化していくという手法を使ってきた。しかし、これも限界に来ている――。憲法の不備を整え、わが国と国民を憲法によって守らなくてはならない。(サムネイルは首相官邸HPより)


台湾総統選 頼清徳氏の勝利と序章でしかない中国の世論工作|和田政宗

台湾総統選 頼清徳氏の勝利と序章でしかない中国の世論工作|和田政宗

中国は民進党政権を継続させないよう様々な世論工作活動を行った。結果は頼清徳氏の勝利、中国の世論工作は逆効果であったと言える。しかし、中国は今回の工作結果を分析し、必ず次に繋げてくる――。


最新の投稿


【川勝劇場終幕】川勝平太とは何者だったのか|小林一哉

【川勝劇場終幕】川勝平太とは何者だったのか|小林一哉

川勝知事が辞任し、突如、終幕を迎えた川勝劇場。 知事の功績ゼロの川勝氏が、静岡に残した「負の遺産」――。


【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。