中国共産党に「プロパガンダの勝利」を与えてはならない
アメリカでは、2022年北京冬季オリンピックの開催地変更、さらにはボイコットを求める声が、有力保守政治家を中心に高まってきた。
口火を切ったのはポンペオ前国務長官である。
2月16日のFOXニュースとのインタビューで、凄まじい人権抑圧が続く中国でオリンピックを開催し、中共に「プロパガンダの勝利」を与えてはならない、と強調した。トランプ政権末期に、中国共産党政権(以下、中共)は「新疆において、ウイグル人イスラム教徒やその他の民族的、宗教的少数派を標的としたジェノサイドおよび人道に対する罪を犯している」と、アメリカ政府を代表して公式声明を発したのが同氏であった。その流れにおいて当然の発信と言えるだろう。
ここで議論を混乱させないため、ジェノサイド(集団殺害)の定義を、ジェノサイド条約(1948年、国連総会採択)に則して見ておこう。単に大量殺害だけを指す狭い定義にはなっていない。
なお訳文は、様々あるなかから有斐閣『国際条約集』のものを採った。編集代表の岩沢雄司東京大学名誉教授は、現在、国際司法裁判所の判事を務める、この分野の世界的権威である。
《この条約において集団殺害とは、国民的、人種的、民族的又は宗教的な集団の全部又は一部を集団それ自体として破壊する意図をもって行われる次のいずれかの行為をいう。 a集団の構成員を殺すこと b集団の構成員に重大な肉体的又は精神的な危害を加えること c全部又は一部の身体的破壊をもたらすよう企てられた生活条件を故意に集団に課すこと d集団内の出生を妨げることを意図する措置を課すこと e集団のこどもを他の集団に強制的に移すこと》
この条約を日本は批准していないが、中国は批准している。すなわちこの定義を受け入れている(驚くべきことに、北朝鮮も批准している)。
したがって、ナチスのアウシュビッツ収容所におけるような計画的絶滅作戦が進行しているとは言えないのに(少なくともそこまでの証拠はないのに)、ジェノサイドと呼ぶのは極端だといった議論は当たらない。
物理的な大量殺戮でなくとも、上記の「いずれか」の状態を含めば、国際法上はジェノサイドに当たる。そして、この点、中共の「有罪」は疑う余地がない。