アントニー・ブリンケン国務長官、ウェンディ・シャーマン副長官をはじめ、バイデン大統領が政権幹部職に指名した人々は、上院の承認審査を受けるに当たって、共和党議員たちから「新疆で継続中の事態をジェノサイドであり、人道に対する罪であると認めるか」と軒並み念を押されている。
少しでも誤魔化そうとすると、「ホールド」(待った)を掛けられることになる。すべての上院議員にホールドの権利があり、たった一人であっても、回答が不十分だとホールドを宣言すると、一定期間、人事手続きが止まる。
そのため、ブリンケンもシャーマンも、おそらく本音では外交の手を縛られないよう適当に答えたかったろうが、「イエス」と明言せざるを得なかった。
傲慢な宥和派として知られるシャーマンの場合、ウイグル人に関するルビオ議員の書面質問に、「イエス。中華人民共和国は新疆において人道に対する罪とジェノサイドを犯してきた(has committed)」と完了形で回答したため、ルビオから、なぜ現在進行形で答えないのか、もう済んだ話という認識なのか、とさらに追及を受けている。
人事承認権を盾に徹底して言質を取っていくあたり、個々の決議案が通る通らないを越えた、アメリカの上院議員の力がはっきり見て取れる。
ジェノサイドと認定した以上、「では開催地を変更するよう、自由主義圏のリーダーとしてIOCに圧力を掛けよ」という第二の論点、「それでもIOCが動かない場合、アメリカは選手団を北京に送らず、大会をボイコットせよ」という第三の論点が、主に野党共和党からバイデン政権を襲い続けることになろう。
こうした野党ないし議会から政府に向けた突き上げは、イギリスやカナダでも見られる。
まずイギリスだが、野党・自由民主党のエド・デイビー党首は、「中国が新疆の収容所を閉鎖し、ウイグル人に対する民族浄化をやめない限り、五輪選手団を送ってはならない」と主張し、英国オリンピック委員会および英国パラリンピック委員会に宛てて、次のような書簡を送った(2月22日付)。 「我々の目の前でジェノサイドが起こっている。あなた方が送るチームは、わが国の最高のアスリートたちであり、いかなる状況下でも、中国共産党のプロパガンダに使われることを許してはならない」
そして、「仮に参加するとしても」として、次のように付け加えている。 「オリンピックの場で抗議活動を行ってはならないという国際オリンピック委員会のルールにも拘らず、アスリートたちは中国政府に対して声を上げることを妨げられてはならない」
日本の野党に存在意義なし
デイビー党首からの同趣旨の質問に対し、ボリス・ジョンソン英首相は、「新疆でウイグル人に加えられている身の毛もよだつような行いにスポットライトを当てたサー・エドは正しい。それゆえ政府としては、英国企業が決して人権蹂躙に関与したり利益を得たりしないよう政策を立ててきた」としつつも、「スポーツのボイコットは、この国において通常好むところではない。それはわが政府の従来の立場でもある」と一歩引いた発言を行っている。
もっとも、昨年10月にラーブ英外相が「一般論としては、スポーツと外交や政治は分けられねばならないと感じているが、それが可能でなくなる一線というものもある」と述べており、政権として今後に含みを残している。
その際ラーブは、ウイグル人と宗教を同じくするイスラム諸国が声を上げないのはおかしいとの認識も示しており、中国の援助攻勢を受けてきたイスラム国が今後どういう対応に出るかが一つの焦点となろう。
カナダでも、やはり野党・保守党のエリン・オトゥール党首が、2022年冬季五輪の開催地を北京から他に移すべきだと主張してきた。その際、「カナダは立ち上がらねばならない。ただし、単騎で突進する必要はない。緊密な同盟国群と協同すべきだ」とNATO諸国に働きかけるよう政府に求めている。
また、カナダの下院(定数338)は2月22日、中国政府がウイグル人にジェノサイドを行っているとの認識を明らかにしたうえで、冬季五輪開催地の変更を求める保守党提出の動議を賛成多数で採択した。与党議員を含む266人が賛成票を投じ、残りは棄権で、反対票を投じた議員はいなかった。
以上見てきた米英加三カ国とも、より立場の自由な野党がボイコット論を先導している。翻って、立憲民主党を筆頭に日本の野党は一体何をしているのか。その存在意義に改めて疑問を感じざるを得ない。
なお、カナダのギー・サンジャック元駐中国大使が興味深い指摘をしている。2022年冬季五輪はとりあえず1年延期とし、その間に別の開催地を探すべきだというのである。ここでも、日本の元駐中国大使で、北京の反発を買うのが必至な同様の主張を公にし得る人がいるだろうかと考えると、嘆息せざるを得ない。
同大使は率直に次のようにも言う。中国は開催地変更を唱える国に強烈な報復を加えると示唆しているが、良い仲間の一員として行動するなら怖くない、「そして中国に対して率先して立ち上がれる国はアメリカだけだ」。
実際、アメリカがどれだけの覚悟でどう動いていくかが、事態の推移を握るカギとなるだろう。