自由を奪われたウイグル人女性たち
ASPIレポートはいくつかのケーススタディを含んでいる。そのひとつが、米国靴メーカーであるナイキの例だ。ナイキは、自社の靴の製造を韓国企業であるテグァン産業の現地法人である青島泰光製靴有限公司に委託している。
この山東省青島に位置する工場には、2007年以来、60以上のグループに分けられた約9,800人のウイグル人が移送され、そのほとんどが、中国政府が危険な後進地域と見なすホータンやカシュガル出身の女性だという。
ウイグル人労働者は、日中はナイキのシューズ製造に従事し、夜は夜間学校で北京語を学び、中国の国歌を歌い、職業訓練と愛国教育を受ける。そのカリキュラムは、基本的に新疆ウイグル自治区の再教育収容所で実施されるものと同じだ。
夜間学校は「ザクロの種夜間学校」と命名されている。これは、習近平がスピーチのなかで「すべての民族はザクロの種のように堅く束ねられねばならない」と述べたことに由来する。
2020年1月のワシントンポストの報道によると、これらの労働者は自らの意思で来たのではなく、新疆ウイグル自治区政府によって移送され、休暇を取って帰宅することも許されていないという。ワシントンポストが掲載した写真によれば、工場には監視塔があり、有刺鉄線で覆われた塀で囲まれている。
労働者は工場周辺を自由に歩くことができるが、敷地からの出入りはゲートに設置されている顔認証カメラで常時監視されている。青島の工場では年間700万足以上のナイキのシューズが製造されており、中国政府高官に模倣拡散すべきモデルと見なされているという。
2018年1月、ホータンのローカルメディアが、青島の工場で働く130人のウイグル人労働者がホータンの自治体政府に送った感謝状を掲載した。そこには、彼女たちが工場に送られる前は貧困にあえいでいたが、いまは月額2,850元(約45,400円)を稼ぐことができ、過激な宗教的信条の危険さを学び、美しい生活を送っている、と北京語で書いてあった。
民族弾圧、世界中の消費者も同罪か
上記からわかるように、海外有名企業は、中国国内においてサプライヤーに業務委託しており、そのサプライヤーが中国政府のスキームに則ってウイグル人労働者を使用しているという構図がある。ASPIは82社に対して、それらの中国政府のスキームを採用しているサプライヤーとの関係を確認した。
少数の企業がそれらのサプライヤーとの契約を停止したと伝えてきたが、アディダスとボッシュとパナソニックは、それらのサプライヤーと直接契約していないと回答してきたという。とは言え、下請けサプライチェーンのどこかでウイグル人労働者を使用している可能性は否定できまい。
このように、西側自由主義国に住む我々は、中国による仮借なき人権弾圧に眉を顰めながらも、いつのまにか中国による人権弾圧、少数民族搾取、思想改造のスキームのなかに取り込まれてしまっているのだ。
西側諸国は中国を世界の工場として利用することで、廉価で高品質の製品を享受してきた。中国の労働コストが上昇していると言われていたが、その対応策として中国は少数民族を強制的に労働力として駆り出し、同時に思想改造教育を行っていたのだ。
我々は普通に生活しながら少数民族を弾圧し、搾取する恐ろしい世界に住んでいる。これこそが、中国が支配する世界だ。