ウイグル人の血で染まったナイキのシューズ
いまの中国は共産主義ではなく、ファシズムだと指摘する人がいる。しかし、中国はこれまで人類が遭遇したことのない、まったく新しいタイプの脅威であり、かつ、最も強力だと考えるのが適切だろう。それは、徹底した国家統制主義でありながら、利益追求という人間の欲望をとことん刺激し支配するからだ。
中国は、レーニン式の全体主義国家運営を維持しながらも、ふたつの方法で全世界を中国に依存させることに成功した。まず、安価な労働力を使って世界の工場となり、サプライチェーンを支配した。メイド・イン・チャイナなしでは生活できなくなり、新型コロナのパンデミックに際しては、マスクすら中国でしか作っていないことがわかって慄然とさせられた。
もうひとつ。中国はその巨大な市場を武器とした。世界中の企業が売り上げ拡大を目指して中国に殺到。十分な購買力を持った中国市場の出現はグッドニュースでしかなかった。これからは、没落するアメリカに代わって中国の時代がやってくるから中国に付いていくのが正しい、と考えた国も少なくなかった。
しかし、中国はただ巨大な購買力を提供しているだけではなかった。様々な規制をかけて外国企業の技術を抜き取り、メイド・イン・チャイナの品質を飛躍的に向上させた。やがて自信をつけた中国は暴走する。
全世界の面前で、香港の民主主義を圧殺した。ここに至ってようやく世界は中国の本質に気付いたが、もはや手遅れかもしれない。西側先進国は金儲けが人権に優先するほど腐敗し堕落しており、それゆえにすでに中国に支配されているからだ。
中国の毒は、我々一般庶民の生活にも深く浸透している。真っ赤なナイキのシューズに憧れる人は、そのお洒落なシューズがウイグル人の血で染められているとは想像もしなかっただろう。我々の日常の購買行為が、中国による少数民族の弾圧に加担していたのだ──。
有名ブランド82社の下で強制労働
オーストラリアのシンクタンク、ASPI(Australian Strategic Policy Institute)のレポート“Uyghurs for sale”は衝撃的だった。
中国政府によるウイグル族の弾圧は以前から報じられていた。過激な宗教を封じるとの名目で、2017年から100万人以上のウイグル人が再教育施設に収容された──。このような報道を見聞きし、我々はウイグル人は虜囚の民だという認識だった。
だが、ASPIのレポートによると、中国政府のウイグル人政策はすでに次のフェーズに移行しているという。中国政府はすべてのウイグル人が再教育プログラムを卒業したと発表。思想改造を終えたウイグル人は中国全土の工場に送られ、厳しい監視下で強制労働に従事させられているというのである。
なかには収容所から直接工場に送られたケースもある。そして、我々が日常的に目にしている多くの有名企業が、その強制労働を利用しているというのだ。
ASPIは、中国の9つの省でウイグル人を労働者として使用している工場が27あることを確認。2017年から2019年の間に、新疆ウイグル自治区から少なくとも8万人がそれらの工場に移送された。それらの工場は、世界的に有名なブランド82社の製品製造に携わっている。
ブランド82社には、アップル、BMW、GAP、ナイキ、サムスン、フォルクスワーゲンなどの他、日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱電機、ミツミ電機、任天堂、パナソニック、ソニー、TDK、東芝、ユニクロ、シャープの日本企業11社も含まれている。
ウイグル人労働者たちは隔離された寮に住まわされ、労働時間外は中国語(北京語)と思想教育を受ける。カメラ等による監視の他に番人が配属され、行動範囲は制限され、すべての宗教行為は禁止されている。
工場での労働を拒否すれば強制収容所に送られる危険が常にある。地方政府と民間ブローカーには、労働者の獲得にあたって1人当たりいくらという報酬が支払われているという。
また、新疆ウイグル自治区の労働者の自宅には漢人が派遣され、家族を監視し、人質としている。中国政府は、このウイグル人強制労働プログラムを「職業訓練」と呼んでいる。