ウイグル人「強制労働プログラム」|山岡鉄秀

ウイグル人「強制労働プログラム」|山岡鉄秀

「人権の党」である公明党はなぜ、ウイグル対中制裁に慎重なのか。「根拠なければ」と山口那津男代表は述べているが、真っ赤なナイキのシューズがウイグル人の血で染まっていることをご存じないのだろうか。我々の日常の購買行為が、中国による少数民族の弾圧に加担していた──。月刊『Hanada』2021年1月号に掲載され大反響を呼んだ、衝撃のレポートがついに解禁!


ウイグル人の血で染まったナイキのシューズ

Getty logo

いまの中国は共産主義ではなく、ファシズムだと指摘する人がいる。しかし、中国はこれまで人類が遭遇したことのない、まったく新しいタイプの脅威であり、かつ、最も強力だと考えるのが適切だろう。それは、徹底した国家統制主義でありながら、利益追求という人間の欲望をとことん刺激し支配するからだ。
 
中国は、レーニン式の全体主義国家運営を維持しながらも、ふたつの方法で全世界を中国に依存させることに成功した。まず、安価な労働力を使って世界の工場となり、サプライチェーンを支配した。メイド・イン・チャイナなしでは生活できなくなり、新型コロナのパンデミックに際しては、マスクすら中国でしか作っていないことがわかって慄然とさせられた。

もうひとつ。中国はその巨大な市場を武器とした。世界中の企業が売り上げ拡大を目指して中国に殺到。十分な購買力を持った中国市場の出現はグッドニュースでしかなかった。これからは、没落するアメリカに代わって中国の時代がやってくるから中国に付いていくのが正しい、と考えた国も少なくなかった。
 
しかし、中国はただ巨大な購買力を提供しているだけではなかった。様々な規制をかけて外国企業の技術を抜き取り、メイド・イン・チャイナの品質を飛躍的に向上させた。やがて自信をつけた中国は暴走する。
 
全世界の面前で、香港の民主主義を圧殺した。ここに至ってようやく世界は中国の本質に気付いたが、もはや手遅れかもしれない。西側先進国は金儲けが人権に優先するほど腐敗し堕落しており、それゆえにすでに中国に支配されているからだ。
 
中国の毒は、我々一般庶民の生活にも深く浸透している。真っ赤なナイキのシューズに憧れる人は、そのお洒落なシューズがウイグル人の血で染められているとは想像もしなかっただろう。我々の日常の購買行為が、中国による少数民族の弾圧に加担していたのだ──。

有名ブランド82社の下で強制労働

オーストラリアのシンクタンク、ASPI(Australian Strategic Policy Institute)のレポート“Uyghurs for sale”は衝撃的だった。
 
中国政府によるウイグル族の弾圧は以前から報じられていた。過激な宗教を封じるとの名目で、2017年から100万人以上のウイグル人が再教育施設に収容された──。このような報道を見聞きし、我々はウイグル人は虜囚の民だという認識だった。
 
だが、ASPIのレポートによると、中国政府のウイグル人政策はすでに次のフェーズに移行しているという。中国政府はすべてのウイグル人が再教育プログラムを卒業したと発表。思想改造を終えたウイグル人は中国全土の工場に送られ、厳しい監視下で強制労働に従事させられているというのである。
なかには収容所から直接工場に送られたケースもある。そして、我々が日常的に目にしている多くの有名企業が、その強制労働を利用しているというのだ。
 
ASPIは、中国の9つの省でウイグル人を労働者として使用している工場が27あることを確認。2017年から2019年の間に、新疆ウイグル自治区から少なくとも8万人がそれらの工場に移送された。それらの工場は、世界的に有名なブランド82社の製品製造に携わっている。

ブランド82社には、アップル、BMW、GAP、ナイキ、サムスン、フォルクスワーゲンなどの他、日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱電機、ミツミ電機、任天堂、パナソニック、ソニー、TDK、東芝、ユニクロ、シャープの日本企業11社も含まれている。
 
ウイグル人労働者たちは隔離された寮に住まわされ、労働時間外は中国語(北京語)と思想教育を受ける。カメラ等による監視の他に番人が配属され、行動範囲は制限され、すべての宗教行為は禁止されている。
 
工場での労働を拒否すれば強制収容所に送られる危険が常にある。地方政府と民間ブローカーには、労働者の獲得にあたって1人当たりいくらという報酬が支払われているという。
 
また、新疆ウイグル自治区の労働者の自宅には漢人が派遣され、家族を監視し、人質としている。中国政府は、このウイグル人強制労働プログラムを「職業訓練」と呼んでいる。

関連する投稿


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

副大統領候補に正式に指名されたJ.D.ヴァンスは共和党大会でのスピーチで「同盟国のタダ乗りは許さない」と宣言した。かつてトランプが日本は日米安保条約にタダ乗りしていると声を荒げたことを彷彿とさせる。明らかにトランプもヴァンスも日米安保条約の本質を理解していない。日米安保条約の目的はジョン・フォスター・ダレスが述べたように、戦後占領下における米軍の駐留と特権を日本独立後も永続化させることにあった――。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


最新の投稿


【シリーズ国民健康保険料①】とにかく誰もが困っている「国民健康保険料」|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料①】とにかく誰もが困っている「国民健康保険料」|笹井恵里子

突然、月8万円に……払いたくても払えない健康保険料の実態の一部を、ジャーナリスト・笹井恵里子さんの新著『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より、三回に分けて紹介。


【シリーズ国民健康保険料②】あまりに重すぎる負担…容赦のない差し押さえも|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料②】あまりに重すぎる負担…容赦のない差し押さえも|笹井恵里子

税金の滞納が続いた場合、役所が徴収のために財産を差し押さえる場合がある。だが近年、悪質な差し押さえ行為が相次いでいるという(笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より)。


【シリーズ国民健康保険料③】“年収の壁”を見直すと国民保険料はどうなるの…?|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料③】“年収の壁”を見直すと国民保険料はどうなるの…?|笹井恵里子

いまもっぱら話題の「103万円、106万円、130万円の壁」とは何か。そしてそれは国民健康保険料にどう影響するのか(笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より)。


【今週のサンモニ】重篤な原子力アレルギー|藤原かずえ

【今週のサンモニ】重篤な原子力アレルギー|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心  キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心 キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!