ウイグル人やモンゴル人へのジェノサイド
具体的に辿ってみよう。1949年10月、中華人民共和国が建国されると、翌年10月にはチベットを侵略した。チベット人の国土は中国に奪われ、ダライ・ラマ法王はインドに亡命して今日に至る。
内蒙古のモンゴル人のケースを、モンゴル学者で日本国籍を取得した楊海英氏が書いている。1万5000ページに上る『モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料』(風響社)のどの頁にも、モンゴル人が体験した中華人民共和国による虐殺、拷問、搾取の具体例が記されている。楊氏の研究は、そうした悲劇がいまも続いていることを明確に示している。
新疆ウイグル自治区で強制収容されている100万人とも200万人ともいわれるウイグル人への弾圧、拷問、虐殺はどう説明できるのか。香港はなぜ自由な言論空間を奪われたのか。果敢に真実を伝え続けた「リンゴ日報」の社主、ジミー・ライ氏はなぜ収監されているのか。周庭氏や黄之鋒氏はなぜ、逮捕されなければならないのか。
孔大使には答えられまい。氏の言葉とは裏腹に、新中国は成立直後からあらゆる意味で侵略・圧政に手を染め続けている。国土、水資源、文化、思想、言語まで、他国、他民族のみならず、共産党に従わなければ自国民からも奪うのが共産党の中国だ。中国共産党は実に醜い政党だと強く実感する。この国は決して信用してはならないとの思いを改めて強くする。
究極の物言えば唇寒しの国
それでも孔氏は、新中国は「和を以て貴しとなす」精神で、70年間、終始平和的発展の道を歩んできたと言う。言葉で書き残しさえすれば、それが本物の歴史になると考えるのが中国人なのか。中華人民共和国憲法を読むと、その想いを強くする。そこには数々の民主的な条文が並んでいる。
たとえば、中国は人権を尊重し(33条)、言論・出版・集会・結社・行進・示威の自由を保障する(35条)。宗教・信仰の自由(36条)も通信の自由及び通信の秘密も保護される(40条)。高齢者や貧しい国民には社会保険・救済及び医療事業を施す(45条)など、延々と美しい条文が続く。
問題は、どう見てもこれらの条文が文字だけに終わっていることだ。ジャーナリストや編集者が習近平国家主席の政治思想に関するテストを受け、合格しなければ記者証が更新されない中国に、言論の自由があるとは誰も言うまい。
気の毒なことに、中国人は政治思想テストに合格して記者証を貰えたからといって、自由に報道できるわけではない。「リンゴ日報」の社主、ジミー・ライ氏が拘束されたように、中国共産党の主張に沿う記事しか書けないのである。
言論の自由がないのはジャーナリズムにおける現象だけではない。共産党政府にはおとなしく従うべし、というのが中国万民に課された共通の原則である。アリババグループ創業者、ジャック・マー氏は国際社会に広く知られる実業家だ。世界的な成功を手にした氏でさえも例外ではあり得なかった。
氏は習近平国家主席の金融規制などを批判しただけで、史上最大規模の資金調達となるはずだったアントの新規株式公開を前日になって取り消された。中国はその国民、13億人全員にとって、究極の物言えば唇寒しの国である。