「中華民族」という「民族」はどこにも存在しない
しかしよく考えてみれば、この地球上に、「中華民族」という「民族」はどこにも存在しない。漢民族やチベット人やウイグル人やモンゴル人などの様々な民族はあっても、「中華民族」という民族は実在しない。それは単に、人工的に作り出された一つの虚構の概念である。
実は中国共産党政権にとって、この虚構の概念こそ、諸民族を支配し弾圧するための非常に便利な道具となっている。前述の「モンゴル人も中華民族だから中国語を勉強するのは当然だ」という彼らの言い分はまさにその典型例の一つであるが、たとえば中国共産党がチベット人やウイグル人を弾圧する際、彼らの言い分からすればそれは決して「民族弾圧」ではない。弾圧する側の中国共産党と弾圧される側のチベット人やウイグル人は同じ「中華民族」だから、中共の弾圧は「民族弾圧」にならないのである。
漢民族と共産党の軍事力によって、55の民族は大変不本意ながらも、一方的に「中華民族の一員」とさせられ、共産党と漢民族の支配と圧迫にあえいでいる。
民族征服のための「サラダボウル」
さらに理不尽なことに、無理矢理「中華民族の一員」にさせられた諸民族が、自分たちの意思でそれをやめることもできない。「中華民族をやめよう」と言った途端、「民族分裂」の罪名を着せられて共産党政権の軍事力・警察力によって鎮圧されてしまうからだ。そして、このような55の民族の悲運は中国周辺の諸民族にとっては決して他人事ではない。
「中華民族」という虚構には、実は中国にとってのもう一つの妙用がある。それはすなわち、民族征服のための「サラダボウル」としての機能である。どんな野菜でもサラダボウルに入れられればサラダとなるのと同様、中国共産党からすれば、どんな民族でもそれを征服して「中華民族」の枠に入れさえすれば、その民族はその瞬間からめでたく「中華民族」になってしまう。
結局、チベット人もウイグル人もモンゴル人も皆、無理矢理にサラダボウルに入れられ、「中華民族」にさせられたわけだが、逆に中国からすれば、「中華民族」というサラダボウルを常に用意し、あとは圧倒的な軍事力さえあれば、いつでもどこでも、他民族を「中華民族の一員」にして支配できるのである。
このままいけば、日本民族もいずれ中華民族のサラダボウルの標的になりかねない。今後、いかにして日本国民の国防意識と国家の国防体制を高めていくのかが、我らにとっての死活問題である。(初出:月刊『Hanada』2020年11月号)