同日の参院予算委員会では、社民党の福島瑞穂氏がこんな無茶な質問をしていた。
「官僚に刑法犯を犯させてまで守ってもらったんでしょ。総理を守るための書類の改竄で、さらに人が死んでいる」
これには安倍首相も「全て決めつけだ。そう決めつけるのであれば、その理由を示してもらいたい」と反論したが、福島氏の目的はテレビ視聴者に首相の悪いイメージを植え付けることだろう。理由も定かでない1人の人間の自死まで政治利用して政権攻撃に使っているのは、福島氏だけでなく野党議員に数多い。
メディアも、官僚による安倍首相への忖度をやたらと強調するが、はたして実態はどうか。首相自身は最近、近しい大物官僚OBに、面と向かってこんな本音を囁かれている。
「申し訳ありませんが、官僚にとっては首相も大臣もどうでもいいんですよ」
どうせ数年で交代する首相や閣僚よりも、もっと長い時間をともにし、出世にかかわってくる役所内の上司のほうがよほど重要な存在なのである。そんなことは永田町では常識だったはずなのに、野党議員もメディアもそれは指摘しない。財務省OBもこう語る。
「財務省では、上司にこびへつらうことはあっても、政治家など外部にそれをする必要はない」
与野党問わず多くの政治家を若手の頃から取り込んでおり、国税庁という捜査機関を持ち、マス・メディアや経済界も押さえている財務省の官僚が、省内ならともかく省外で忖度する理由などないというのである。
安倍首相自身も、それでも官僚の忖度説に固執するある政治評論家に、直接こう問いかけたことがあるという。 「あなたは政治部の若手記者だった頃、社長の意向や思惑なんて忖度することがありましたか」
すると評論家は、「なるほどそうですね。下っ端の頃は、社長がどうのこうのなんてまるで考えませんでした」と納得した。日本という超巨大組織のトップがどう思っているかなど、末端職員の知るところでも慮るところでもないのは当たり前だろう。
昭恵夫人への個人攻撃
そもそも自殺した近畿財務局職員が残した遺書とメモ(書き置き)には、本省理財局職員の名前はあるものの、安倍首相も昭恵夫人も出てこない。筆者が聞き及んだところでは、遺書とメモにはたくさんの固有名詞が出てくるが、とりわけある職員への恨みつらみが記されているという。
にもかかわらず、次に示すようにまるで安倍首相や昭恵夫人が自死に追い込んだかのように言うのは、明らかな人権侵害であり、故人の名誉をも弄び、傷つけることである。
「昭恵さん、貴方も人間でしょ。貴方が(森友学園の)名誉校長になり校地予定地を視察し、講演で『何かお役に立てれば』と言い、感涙しなければ、人ひとり死ななくて済んだんですよ! 良心の呵責というものがないんですか?」
「昭恵さん、いずれにせよ貴方が関与した学校をめぐる問題で自殺者がでたんでしょ。普通の神経の人間なら、そのショックでふさぎこんでいると思っていた。どこまで貴方は『ノー天気』なんですか。国会に出てきて証人喚問を受けなさい! それがせめてもの、犠牲になった方への『お悔み』でしょうが!!」(ともに3月13日の無所属の会の江田憲司衆院議員のツイッター)
一方、参院予算委を受けた20日付の朝日新聞朝刊には、1面に大きく「昭恵氏記述巡り論戦」 「理財局長『総理夫人だから記述』」との見出しが載り、2面でも派手に「昭恵氏影響釈明に終始」とあった。読者に昭恵夫人には何かあると思い込ませたいのか。個人攻撃だとの印象を受ける。
野党も一部メディアも、自分たちがなりふり構わずやっていることや主張していることが恥ずかしくないのか。本当に、こんなことでいいと信じているのか。これがはたして民主主義国家にふさわしいやり方だろうか。
官僚の「働き方改革」を阻害したのは?
そして、森友学園への国有地売却に関する財務省の決裁文書がなぜ改竄されたかについては、衆参両院で3月27日に行われた佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問を通じ、背景が浮かび上がってきた。
佐川氏は理財局長当時に「交渉記録は廃棄した」などと、改竄前文書とは食い違う「丁寧さを欠いた」(佐川氏)答弁をしていた理由について、「お叱りを受けると思うが」 「言い訳になるが」と断りつつも、こう説明した。
「当時、局内は私も含めて連日連夜、朝までという日々で、本当に休むこともできないような、月曜日から金曜日まで毎日ご質問を受ける中で、そうした(確認の)余裕はなかった。全く余裕がなかったのが実態で、相当、局内も騒然としていた」(自民党の丸川珠代参院議員への答弁)
「局内の騒然とした状況の中で、やはりそれ(確認)を怠ったということだろう」(公明党の横山信一参院議員への答弁)
「レクチャーを受ける時間もほとんどなく、原課で作った答弁資料を入れてもらい、順次読み込んでいるという状況だった」(日本維新の会の浅田均参院議員への答弁)
また、答弁内容については省内や首相官邸と十分協議していたはずではないかとの問いには、次のように答えた。
「昨年、例えば予算委員会7時間コースだと、ほとんど全員の質問者が、森友の質問をされるケースもあった。本当に何十問なのか、100問を超えるのか分からないが、(答弁準備が)事実上間に合わないケースもあった。それぞれ協議をしているという余裕もなかった」(民進党の小川敏夫参院議員への答弁)
「何月何日に現場で職員と業者とか、相手側と会ったとか、極めて実務的な話で、そういうものを首相官邸と調整することは通常は考えられない」(共産党の小池晃参院議員への答弁)
そして、立憲民主党の逢坂誠二衆院議員が「局内はなぜ混乱していたか」と尋ねると、こう強調した。
「国有財産の部局は個別案件の話も多いし、そんなに毎年国会でたくさん質問をいただく部局ではない。そういう中で毎日月曜から金曜まで毎週何十問も通告され、資料の利用もあり、外部からも情報開示請求をされ、いろいろなチェックをしないといけない。大変だったことは事実だ。これまでにない状況だった」
何のことはない。野党議員らによる質問攻めや資料請求などへの対応に忙殺されたため理財局内に混乱が生じ、丁寧さを欠く答弁になった──というのである。
もちろん、これは佐川氏自身も認めているとおり「言い訳」の類であり、だからといっていい加減な国会答弁が許されるわけではない。佐川氏の答弁との矛盾が文書改竄にがったとしたら責任は重い。
とはいえ、当時の理財局がそうした状況に置かれていたのは事実だろう。現在の太田充理財局長も3月28日の参院予算委員会で、次のように語っていた。
「答弁はとにかく朝までかかってということだし、週末もほとんど全部出勤している。今国会が始まってから、休んだのは2月の3連休のうち1日だけだ」
もし本当に、真相解明を求める野党の過酷な追及も手伝ってのこんな過酷な状況が佐川氏の誤答弁を生み、文書改竄という最悪の結果を導いていたとしたらどうか。その場合、近畿財務局職員の自殺の遠因は、本省を混乱させてそのツケを近畿財務局に回させた野党の姿勢にあるともいえる。
もとより、人一人の自死をあまり憶測や当て推量で語るべきではない。ただ、全てを昭恵夫人の言動のせいにしようとする野党議員のやり方をみると、ついこんなことも言いたくなるのである。
5月から6月初旬にかけて行われる予定の米朝首脳会談の結果次第では、東アジアの安全保障環境は激変する。「朝鮮半島の非核化」で米朝が合意すれば、在韓米軍は撤退することになるとみられているからだ。そんな時期に、モリカケしか関心のない野党議員やメディアには、怒りよりも絶望を覚える。