メディアと国会に狂気が蔓延
作家の筒井康隆氏の戯曲『12人の浮かれる男』を思い出す。アリバイがあり、無罪が濃厚な少年を「マスコミも注目している。無罪では面白くない」と12人の陪審員たちがよってたかって屁理屈をこね、有罪にしてしまうというストーリーである。
もちろん、米テレビドラマ・映画の名作『12人の怒れる男』の設定を裏返したパロディーだが、いまはとても笑えない。
実際、この1年数カ月、野党議員や一部メディアが主張し、国民を誘導しようとしてきたことは、筆者の目には魔女を作り出すために論理を逆立ちさせた次のような倒錯そのものだと映る。
「圧力団体の既得権益は尊く、省庁の岩盤規制は正義だ。たとえ国民や地域のニーズがあろうと、規制緩和による公正な競争の導入など許せない」
「『面従腹背』を座右の銘とし、暴力団の資金源だとの噂もある風俗店に通い詰めていた違法な天下りの元締めは、無謬の聖人君子で立派だ」
「天皇陛下まで持ち出し利用するほどの虚言癖があり、補助金詐欺を行った男の証言は信用できるし、その発言は重い。一方、安倍首相の言葉はみんな嘘だ」
「官僚は常に善にして義なる者で決して悪いことはしない。それに対し、有権者が選んだ政治家はいつも悪いことをする。政治主導は悪しき手法であり、官僚支配のほうがいい」
「行政府の長であり、憲法第72条が『行政各部を指揮監督する』と定める首相が行政に口出しすると、行政は歪められる。政治家は行政に口出し無用だ」
「メディアは、事実や証拠に基づかなくても政権を批判するべきだ。権力の監視のためなら、国益を減じようと国が滅ぼうと、どうでもいい」
洒落や冗談ではない。連日、テレビのニュース番組や新聞紙面で論じられていることを要約すると、こう結論せざるを得ない。
「狂気は個人にあっては稀有なことである。しかし、集団・党派・民族・時代にあっては通例である」
ドイツの哲学者、ニーチェはこう喝破している。いままさに日本で、そうした狂気が蔓延していることに恐怖すら覚える。詐欺などの罪で起訴され、大阪拘置所に勾留中の森友学園前理事長・籠池泰典被告に、野党議員らが雁首並べて話を聞きに行くなど、狂気の沙汰以外の何物でもなかろう。
野党議員「安倍政権に致命傷を与えるだけの材料はない」
加計学園の新獣医学部設置をめぐっては、新規参入を目指した学園側がひたすら悪者にされた。一方で、既得権益固守に動き、政治献金で働きかけを強めてきた日本獣医師会側や、大学学部の許認可権を恣意的に運用し、天下り利権を確保してきた文部科学省側は、何ら問題にされなかった。
森友学園への国有地売却問題では、設置予定の小学校名を「安倍晋三記念小学校」だと虚偽の証言をした籠池氏の言葉は、確認なしに事実として垂れ流された。安倍昭恵首相夫人が本当に言ったかどうか怪しいどころか極めて不自然なセリフ、違うと分かっている発言も、事実である前提で取り沙汰された。
これが現代日本で進行中のことだと思うと、暗澹たる気持ちとなる。まるで、中世ヨーロッパの暗黒裁判と変わらない。正義の仮面を被った理不尽と不条理と悪意が、大手を振って堂々と横行している。
ある野党幹部は3月、産経新聞の記者にこんな本音を漏らした。
「こっちも安倍政権に致命傷を与えるだけの材料はないけれど、追及を続ければ、国民は安倍首相たちは何かやっていそうだと思い、内閣支持率は下がる」
まさに、その狙いどおりの事態となっている。野党もメディアも、森友学園への国有地売却時の土地価格の値下げに安倍首相らが直接関与した、と本心から思っているかは疑わしい。
むしろ、財務省が3月19日に新たに提示した削除文書によると、土地を所有していた国土交通省大阪航空局がゴミ撤去に費用がかかるとして自ら8億円余の値引きを見積もり、財務省近畿財務局に提案していた。そんな地方の些末なやりとりに、どう安倍首相がかかわるというのか。