ポスト・コロナの世界と日本の国防|山際澄夫【左折禁止!】

ポスト・コロナの世界と日本の国防|山際澄夫【左折禁止!】

「日本政府の肝っ玉はネズミより小さい」(李登輝)。日本政府はどこまで中国に遠慮すれば気がすむのか。米国の圧倒的な軍事力と経済力に日本はいつまで依存するのか。「米中関係の守護者」であるヘンリー・キッシンジャーの論考から、ポスト・コロナの世界を読み解く!日本にとってポスト・コロナの世界新秩序は、自由も法の支配もない大国が覇権を握る暗い時代かもしれない――。


自らの責任を認めようともせず、世界の危機を利用しようとする中国に対して、トランプ大統領は、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼ぶなど苛立ちを強めているが、医療物資を受ける国には米国など西側諸国も入っている。
 
新型コロナウイルスとの戦いは、米軍の抑止力にも大きな影響を与えている。米国は、保有空母のうちセオドア・ルーズベルトとロナルド・レーガンの船内でコロナウイルスの集団感染が発生し、断末魔の様相を見せた。
 
特にセオドア・ルーズベルトの場合は、大量の感染者を出し、乗組員をグアムで下船させたいと発信した艦長の解任をめぐって、解任を命じた海軍長官が辞任するという軍隊の統制を疑わせる騒動を演じた。
 
米軍はこれについて、「即応力に問題はない」とコメントしたが、西太平洋で動ける空母がなくなった状態で、本当に問題はないと言い切れるのだろうか。
 
それどころではない、ということなのだろうが、このところの相次ぐ北朝鮮のミサイル発射へも関心は薄いように見える。
 
そうした米国の混乱から見えてくるのは、世界のスーパーパワーだった米国が、そうでなくなる日が意外と早いのではないかという予測だ。
 
日本は国防から拉致被害者の奪還まで事実上、米国に依存してきた。それも米国の圧倒的な軍事力と経済力が前提である。米国の影響力の減退ほど日本にとって不気味なことはない。
 
つまり、日本にとってポスト・コロナの世界新秩序は、鬱陶しい感染病から解放された輝かしい未来ではなく、チベットやウイグル、そして香港弾圧に象徴されるような、自由も法の支配もない大国が覇権を握る暗い時代かもしれないのである。
 
習近平は、「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と露骨な野心を隠さない。新型コロナウイルスとの戦いの最中にも、尖閣諸島での領海侵犯は続けている。こうした激変のなかでは、日本も否応なく変化を迫られるだろう。
 
たしかなことは、憲法や敗戦を理由に、もう誰かに頼り切りの時代は終わらせなくてはならない、ということである。

(初出:月刊『Hanada』2020年6月号)

月刊『Hanada』2020年6月号

著者略歴

山際澄夫

https://hanada-plus.jp/articles/388

ジャーナリスト 1950年、山口県下関市生まれ。産経新聞政治部で首相官邸キャップ、外務省キャップなど歴任。その後、ニューヨーク支局長、外信部次長などを経て退社。著書に『これでも朝日新聞を読みますか?』『すべては朝日新聞から始まった「慰安婦問題」』など多数。月刊『Hanada』で「左折禁止!」連載中。

関連する投稿


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

アメリカは強い日本を望んでいるのか? 弱い日本を望んでいるのか?|山岡鉄秀

副大統領候補に正式に指名されたJ.D.ヴァンスは共和党大会でのスピーチで「同盟国のタダ乗りは許さない」と宣言した。かつてトランプが日本は日米安保条約にタダ乗りしていると声を荒げたことを彷彿とさせる。明らかにトランプもヴァンスも日米安保条約の本質を理解していない。日米安保条約の目的はジョン・フォスター・ダレスが述べたように、戦後占領下における米軍の駐留と特権を日本独立後も永続化させることにあった――。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


最新の投稿


【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「ゴジラフェス」!


【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか  増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか 増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)


【今週のサンモニ】オールドメディアの象徴的存在|藤原かずえ

【今週のサンモニ】オールドメディアの象徴的存在|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。