都合の悪い人物の排除
また、新型肺炎を口実に、この機に乗じて共産党体制にとって都合の悪い人物の排除に乗り出しているのではないか、という点も懸念されます。
新型肺炎の当局の対応に文句を言っただけでも連行されかねませんし、全く違う目的で拘束したい人間を、新型肺炎を口実にして連行しているのではないかという懸念は、中国ではさほど突拍子もないものではありません。
中国共産党のやり口は、日本人の想像をはるかに超えています。何より、「共産党ならやりかねない」……そうした懸念が説得力を持ってしまうほど、中国共産党に対する不信は極まっているといっていいでしょう。
そうした共産党に対する不信感は、本来は助け合うべき民衆同士の相互不信を煽ります。おそらく当局は人民に対し、「肺炎の症状があるのに申し出ず、隠しているような家庭があれば告発せよ」とのお達しを出しているのではないでしょうか。
武漢市だけでなく湖北省全域、浙江省、広州など患者が多いとされる地域から戻ってきた住民の家を、近隣住民が封鎖する動画などもネット上には上がっています。これも公安の指示に加えて、民衆同士の相互不信によるものでしょう。
「隣の家には感染者がいるようです。早く連れて行ってください」と報告があれば当局は強制的に対応するでしょうし、抵抗する人々を見て周りの人が「嫌がっているのだからやめてください」などと言えば、「反革命的態度だ」といって自分が連行されかねない。これは、私も経験した文化大革命の時代と同じ手法です。
となれば、相互不信は当局によって作り出されている面もあるでしょう。一つの村や町で人々が団結し、新型肺炎対応に対する当局非難デモでも起こされれば、共産党体制に揺らぎが生じます。人々を分断しておくことは、当局にとって非常に都合がいいのです。
日本政府の対応は手ぬるい
私は中国にいる知り合いや、在日中国人のネットワーク、春節だからと地元に帰省していた友人の留学生などから情報を得ていますが、誰もが大きな不安を抱えています。
春節前なのでみな地元に帰っていたのですが、家に着いた途端に14日間の隔離を命じられ、家から出られない。私の教え子も日本へ戻るための航空券をキャンセルされ、それっきり連絡もなく待たされていると聞きました。国内の交通自体も止まっているので、空港に行くことすらままならない状況です。
家に閉じこもっているのにも限界があり、食料などの調達には「ネットスーパーを使え」と指示されているようですが、配達可能地域外の人たちも多くいる。また、「一家族につき、2日に1度は買い物に出てよい」とする通行証も配給されているようですが、マスクがなければ外出できない。
当局は「配給や物流を止めないよう全力を尽くして対応している」と発表していますが、全くのウソです。
自宅に閉じ込められて物資を得る方法がなければ、まさに「座して死を待つ」状況。そうした事態を強要している中国当局は、ある種の殺人を行っているといえるのではないでしょうか。
日本の報道を見ていると、漏れ伝わってくる情報とは異なり、中国当局の発表をなぞるばかり。日本の政府の対応も手ぬるいものとしか思えません。
他国はかなり早い段階で、中国からの渡航者を武漢に限らずシャットアウトしました。しかし日本は、春節を利用した中国人観光客が目減りするのを惜しんだのか、あるいは政治家が中国共産党に弱みを握られ圧力をかけられているのか分かりませんが、対応は後手に回り続け、中国に続いて2番目に感染者の多い国になってしまいました。
日本から中国にマスクを送ったり、寄付を呼び掛ける声もあります。これ自体は美しい人道的行動であり、また、それに対する中国からの感謝の声も報じられていますが、こうしたことに騙されてはいけません。
そもそも、日本から送ったマスクが、中国人民の末端にまで届いているわけがない。仮に届いたとしても、それは中国共産党幹部が自らの力や組織を強めるための道具に使っているのです。金銭の寄付をするならば、日本赤十字を通じるなど追跡可能な形でやるべきで、そうでなければ共産党幹部の懐に入るなど、いいように使われてしまう。
日本の善意が中国共産党の悪意に使われてしまう──。こうした経験は、今回が初めてではないはずです。疫病という生死がかかわる状況で日本の善意が利用されるほど許せないことはないし、困っている人々を助けたい日本人にとっても本意ではないはずです。
要は「助け方」の問題です。中国当局を信じ、他の民主主義国家を助けるような気持ちで何をしても、人々のためにはなりません。最も必要なのは、国際的な医療チームを中国国内に派遣し、実態を調査するよう圧力をかけることでしょう。