新型コロナ蔓延は中国共産党の「殺人だ」|楊逸

新型コロナ蔓延は中国共産党の「殺人だ」|楊逸

中国出身で2012年に日本国籍を取得した芥川賞作家が、涙と怒りの告発! 文化大革命の経験から、中国政府を信用してはいけない事を身をもって知り、「彼らは想像をはるかに超える残酷なことを平気で行う」と日本人に警告。


共産党は命より面子を優先

武漢から発生した新型コロナウイルスの蔓延は、ひとえに中国共産党の失政による「人災」です。

2019年12月上旬の時点で、新型とみられる肺炎の症状を訴える患者が確認されていたにもかかわらず、中国当局が本格的な対応を指示したのは1月20日になってから。いち早く新型肺炎の懸念に警鐘を鳴らした34歳の李文亮医師は警察に連行され、その口を封じられました。

この医師は自身もウイルスに感染し、結果的に命を落とすことになりました。体力のない老人や既往症のある人とは違う、若い男性だったにもかかわらずです。告発した見せしめのために、中国当局が適切な治療を受けさせなかったのではないかとさえ勘繰ってしまうのは、私だけではないはずです。

このこと一つ取り上げても、中国共産党が新型コロナウイルス対応よりも、情報の隠蔽に力点を置いたことは明らかです。中国当局は、人民の命よりも自らの「面子」を優先し、事態をここまで悪化させた。「人災」としか言いようがありません。

一方で、中国共産党がいくら情報を統制しても、世界中を結ぶインターネットの網の目を潜り抜けて現地の情報が漏れ伝わってきます。特に動画は現地の状況を生々しく伝えており、中国のSNSである微信(ウィーチャット)などにアップされる動画や写真は、見ているだけで気が滅入るような、ひどいものばかりです。

「私は何の症状もない、自宅から一歩も出ずにおとなしくしているのに、どうして私を連れて行くんだ!やめて!」と泣き叫ぶ女性を、公安当局が数人がかりで無理やり車に乗せていく映像。

当局の指示なのか、近所の人たちから「外に出るな!」と言われて玄関に木材を打ち付けたり、溶接するなどして完全に閉ざされてしまう家の様子。

病院の待合室で突然倒れたまま、何の治療も受けられず放置されている人の姿。

遺体が入っていると思われる袋が山積みになっている光景……。

もはや、中国から流れてくる情報は「殺人の生中継」と言っても過言ではありません。直視するのもつらいけれど、決して看過するわけにはいかない現実が映し出されています。

不信の悪循環で事態悪化

中国で目を覆うような惨状が展開されている最大の要因は、人々に中国共産党当局に対する不信感があるからです。

日本であれば、もし肺炎の症状が出ても、病院や政府に申し出れば適切な処置を受けられるだろう、という信用があります。

しかし中国の場合は、肺炎の症状を訴えたところで、適切な治療が受けられるとは誰も信じていません。当局は人々に外出を禁じ、罹患の疑いのある人は一家まとめて医療施設に”収容”するとしています。しかし連行されたあと、適切な治療を受けられるのか、確証は全くありません。

中国が公開している臨時収容所などの様子を見ても、広い室内に何の仕切りもなくベッドが並べられているだけ。医者や看護師が派遣されるかどうかすら分からない状況で、「野戦病院よりひどい」という指摘もあるほどです。これでは、患者を収容しても施設内でウイルスが蔓延し放題で、家で寝ていれば治ったような患者でもかえって死に近づいてしまう。

「どうせまともな治療は受けられない」 「むしろ収容所に押し込められて放置される」と思っているからこそ、人々は連行に抵抗し、仮に新型肺炎の症状があっても病院にはいかない。この「不信の悪循環」が事態を悪化させている。

こうした意味でも、今回の事態は中国共産党による「人災」なのです。中国共産党の隠蔽体質と人々の当局不信を合わせて考えれば、新型肺炎の罹患者数も死亡者数も、実際は中国の発表の数倍、数十倍、それ以上に達している可能性も否定できません。

中国当局は世界からの視線に耐えかねたのか、武漢市内に新型肺炎患者を受け入れる「火神山医院」をわずか10日で建設し、人民解放軍の湖北支援医療チームを急行させました。

当局の発表では「既存の伝染病病院を上回る防護隔離基準を採用した」として院内の模様などを公開していますが、ハリボテに過ぎないでしょう。いまでは中国当局の発表でさえ1日2000人以上が新たに罹患しているなかで、病床が1000しかない病院でどうやって事態に対処するつもりなのでしょうか。

大紀元時報が報じたところによれば、湖北省の複数の火葬場では遺体の処理数が通常の四倍から五倍に達しているといいます。

〈電話取材を受けたある火葬場の幹部によると、旧正月に入る前から無休で働いており(中略)「昨日(2月3日)も127人の遺体が運ばれてきて、116人を火葬した。死亡証明書の『死因』に『新型肺炎』と書いてあるのは8件、『新型肺炎の疑い』が48件だった〉(大紀元、2月8日)

この記事からは、火葬する遺体が増えているのは新型肺炎の影響ではないか、という点だけではなく、死因が「新型肺炎の疑い」とされる人々が、はたして当局が発表している「新型肺炎による死亡者数」に含まれているのかという疑念も生じてきます。

感染者数、死者数、死亡率など、中国当局が発表している数字は一つとして信用ならないのです。

関連する投稿


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【シリーズ国民健康保険料①】とにかく誰もが困っている「国民健康保険料」|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料①】とにかく誰もが困っている「国民健康保険料」|笹井恵里子

突然、月8万円に……払いたくても払えない健康保険料の実態の一部を、ジャーナリスト・笹井恵里子さんの新著『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より、三回に分けて紹介。


【シリーズ国民健康保険料②】あまりに重すぎる負担…容赦のない差し押さえも|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料②】あまりに重すぎる負担…容赦のない差し押さえも|笹井恵里子

税金の滞納が続いた場合、役所が徴収のために財産を差し押さえる場合がある。だが近年、悪質な差し押さえ行為が相次いでいるという(笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より)。


【シリーズ国民健康保険料③】“年収の壁”を見直すと国民保険料はどうなるの…?|笹井恵里子

【シリーズ国民健康保険料③】“年収の壁”を見直すと国民保険料はどうなるの…?|笹井恵里子

いまもっぱら話題の「103万円、106万円、130万円の壁」とは何か。そしてそれは国民健康保険料にどう影響するのか(笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)より)。


【今週のサンモニ】重篤な原子力アレルギー|藤原かずえ

【今週のサンモニ】重篤な原子力アレルギー|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心  キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

【読書亡羊】激震の朝鮮半島に学ぶ食と愛国心 キム・ミンジュ『北朝鮮に出勤します』(新泉者)、キム・ヤンヒ『北朝鮮の食卓』(原書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!