紙面に載らない被害者の悲痛な叫び
こうした矛盾だらけの制度だけに、制度の利用者はいまだに22万人に留まっている。成年後見制度と同じ年に、高齢社会に対応するためにスタートした介護保険制度のサービス利用者数(565万人=17年1月時点)が順調に増え続けているのと対照的だ。
もともと成年後見制度と介護保険制度は車の両輪の役割を期待されて同時にスタートした。介護保険制度では、利用者が数ある介護保険サービスのなかから自分にふさわしいものを選択し、契約する。ところが、認知症高齢者にはそれができない。そこで家裁が後見人を選任し、後見人が認知症の人の代わりに介護保険を選択して契約を結ぶ成年後見制度が作られたのだ。
だが、数字は正直だ。
この制度が利用されないのは、メリットが小さい割にデメリットがあまりに大きいからだ。
ところが、この破綻した制度の普及のために、いまだに旗振り役を務めているのが、朝日新聞をはじめとする大新聞である。
たとえば朝日は、2019年2月6日から同21日にかけて『教えて!成年後見制度』という特集記事を10回にわたり連載。その後も折に触れ、成年後見制度に関する最高裁の対応を報じている。 先の宮内康二氏は、朝日の連載について、こう話す。
「少し期待しましたが、内容は10年前からのそれと全く変わらず、この期に及んで分析も展望もない。後見と関係ない話題も多く取り上げられ、読者のためというより、後見業界の特定の一派の広報シリーズといった印象すら受けました。 後見の杜には市民からの後見トラブル相談が多数寄せられています。実際にこの制度を利用した人に取材すれば、制度利用者とその家族がいかにひどい人権侵害を受けているかがわかるのに、そうした被害者の生の声が紙面にほとんど載っていません」
サービス提供者側の都合に合わせた情報ばかり報道
この問題についての朝日の報道姿勢の特徴は“上から目線”にある。とくに10回の連載では、それが際立った。連載で掲載されたコメントやデータの出所は最高裁や行政機関、弁護士、司法書士、施設といった後見サービスの提供者、すなわち“上流側”がほとんど。
念のために数えたところ、最高裁や弁護士など上流側のコメント(データ提供も含む)は約20。一方、実際に後見サービスを利用してひどい目に遭った下流側のコメントは2つだけだった。
社会的弱者を救済するための制度の紹介記事なのだから、そうした人たちが本当に救済されているのかどうかを本人や家族に取材して検証すべきなのに、連載では、制度利用者の不満の声は片隅に追いやられ、サービス提供者側の都合に合わせた情報が多数を占めた。