「悪のイラン」を作ったのは誰か
もう一つ、イラン攻撃擁護論でよく聞かれるのが、「イランは人権抑圧の宗教原理主義国家で、テロ支援国家でもある。だからアメリカに成敗させればよい」というものだ。しかしここで一度、立ち止まって問い直す必要がある。そもそも、そんなイランに誰がしたのか。
20世紀前半のイランは、議会制民主主義の国家だった。だが、その豊富な原油はイギリス資本のアングロ・イラニアン石油会社(後のBP)に牛耳られ、利益の大半はロンドンへと流れ込んでいた。これに憤った、選挙で選ばれたモサデク首相が1951年に石油の国有化を宣言する。
激怒した英国はイラン産原油の輸出を封じ込め、徹底した経済封鎖に踏み切った。それでも国有化方針を撤回しないモサデク政権を倒すため、英MI6と米CIAは1953年、ついにクーデターを引き起こす。「アジャックス作戦」である。モサデクは失脚し、米英の後ろ盾を持つパーレビ王朝が傀儡として返り咲いた。
四半世紀後、捲土重来を期したイラン人は1979年の革命でついに政権を取り戻した。だが、王政打倒の幅広い連立のなかで最終的に主導権を握ったのは、よく組織された宗教勢力だった。現在のイランの体制を嫌って海外に住むイラン人も多い。
だが歴史のif(イフ)を辿るなら、米英が1953年のクーデターを仕掛けていなければ、イランは今でも議会制民主主義の世俗的な国家であった可能性は高い。今のイランは、米英自身の介入が育てた鬼子なのである。
現政権の体制に違和感を覚える人がいてもおかしくはない。それは理解できる。しかし、それでもイランは日本にとっての敵性国家ではない。そして、何よりも決定的に重要なのは、イランという国家に対する価値判断ではない。
アメリカがイスラエルのアジェンダに乗って全面戦争を始め、激しく消耗することによって、日本と台湾の安全保障環境が著しく悪化する——この現実こそ、私たち日本人が直視しなければならない事実なのである。
日本に残された時間は、多くない
ここまで論じてきたことを整理する。
第一に、米国とイスラエルが始めたイラン戦争は、トランプ自身の意思を超えて泥沼化し、停戦を維持する難度は日を追って高まっている。
第二に、米下院ではNDAA第224条によって米軍をイスラエル軍と一体化させる動きが進んでいる。
第三に、その結果として米国の対中抑止力は確実に削られていく。
そして第四に、習近平にとって、これほどの好機はない。
つまり、私たちが目にしているのは、はるか中東の戦火が、日本と台湾の存立を直接揺さぶる構図である。今回の戦争は、絶対に対岸の火事ではない。
仮に中国が経済的に破綻し、粛清続きの軍が戦争遂行能力を失えば、日本と台湾にとっては超ラッキーである。だが、そんな他力本願で国は守れない。相手の自滅に賭けるのは戦略ではなく、願望にすぎない。
私がトランプを支持してきたのは、彼が反グローバリズムを掲げ、同盟国に「自立」を促す大統領だからだ。逆説的に聞こえるかもしれないが、日本はトランプ政権の在任中にこそ、「自分の国は自分で守る」普通の独立国を目指さねばならない。自主防衛ができなければ、自主外交もできない。対米依存は、放置すれば容易に対米従属へと転化する。だからこそ、日本にとってこの数年は決定的に重要なのだ。
支持者と「信者」は違う。指導者の判断を是々非々で見極め、間違っていれば間違っていると言うのが支持者であり、何をしても盲目的に肯定するのは信者にすぎない。私はトランプの信者ではない。だからこそ、トランプ支持者として、今回のイラン戦争に反対し、一人の日本人として、日本のプランBを今すぐ準備すべきだと訴える。
FTが突きつけた問いに、最後に答えを出さなければならないのは、ほかでもない私たち自身である。日本に残された時間は、決して多くない。

