イラン戦争の陰で中国が笑う――台湾有事を呼び込むアメリカの誤算|山岡鉄秀

イラン戦争の陰で中国が笑う――台湾有事を呼び込むアメリカの誤算|山岡鉄秀

米国が中東に足を取られて笑うのは誰か。イラン戦争は日本にとって対岸の火事ではない。米国の消耗は台湾有事を呼び込み、日本の安全保障を直撃する――。 日本に「プランB」はあるのか。


トランプ「大爆発」、残るは撤収か

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事態はこの数日でさらに不穏な局面に入った。米メディアAxiosが6月1日に報じたところによれば、トランプは同日のネタニヤフとの電話会談で激昂し、「お前は頭がおかしい(You're fucking crazy)」「俺がいなければお前は牢屋の中だ」と罵倒したという。

トランプ自身が認めたこの発言は、イスラエルがレバノンのヒズボラに対する攻撃をエスカレートさせ、首都ベイルートまで空爆する構えを見せたことで飛び出した。イスラエルの停戦破りの攻撃が、進行中の対イラン交渉を完全に潰しかねないと判断したトランプは、ベイルート攻撃を直接押しとどめた。

そして、ネタニヤフが停戦を全力で妨害する構図は変わらない。イスラエルの目標は核施設の破壊ではなく、明確にイランの体制転換である。同国はかねて「必要なら単独でも行動する」と公言しており、公式には認めていないものの誰もが知る同国の核オプションの存在を背景に置けば、米国を中東の泥沼へ引きずり込もうとする圧力は、これまで以上に露骨である。

トランプに残された選択肢は、もはやイスラエルを置き去りにして中東から撤収することしかないのかもしれない。だが、その間にもイスラエル派の議員たち(テッド・クルーズ、リンゼー・グラハムら)からは停戦絶対反対の強烈な圧力を受け、散発的な戦闘は続き、米軍はイラン側からの報復攻撃で負傷者を出し、高価な兵器を失い続けている。建国250周年を祝う7月4日まで、この消耗を続けるわけにはいかない。常に暗殺の脅威が付きまとうアメリカで、「停戦も命懸け」というのは、決して大げさな表現ではないのである。

米軍が「イスラエルの軍隊」になる日

そしてさらに深刻な動きが、ワシントンの議会で静かに進行している。米下院が公表した2027会計年度の国防権限法(NDAA)案には、第224条として「米イスラエル国防技術協力イニシアチブ」が盛り込まれた。

その中身は驚くべきものだ。AI、量子、自律システム、指向性エネルギー、サイバー、バイオテックといった事実上あらゆる先端防衛分野で、両国の研究開発、共同生産、合弁、ライセンシングを統合する。さらに「ネットワーク統合」と「データ融合」によって、両国軍の作戦データそのものを一体化させる。

法案を分析した米シンクタンクのクインシー研究所系メディア「Responsible Statecraft」は、これが従来の二国間軍事援助の枠組みを超えて、米軍とイスラエル軍を制度的に不可分にするものだと警告した。1948年以来の累計2,000億ドル規模の軍事援助でさえ、これに比べれば氷山の一角に過ぎなかったことになる。

これが実現したらどうなるか。米国は本来の国家戦略であった対中封じ込めから大きく逸脱し、米軍は事実上、イスラエルの戦争を遂行する軍隊へと変質する。対中抑止力は大幅に低下し、日本と台湾は、独り勝ち状態の中国の脅威に、米国の後ろ盾なしに晒される。

NDAAは毎年成立する巨大法案であり、ここに紛れ込ませた条文は通常の国民的議論を経ずに既成事実化されかねない。日本にとって、この一本の条文は連日報じられる中東のニュースよりはるかに重大な意味を持つ。

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