習近平にとってはまたとない好機
バンス副大統領がかねて憂慮していた構図は、すでに目の前で現実になっている。中東での膨大な軍事的消耗は、東アジアにおける対中抑止力を確実に低下させる。弾薬や装備のストックは有限であり、いったん吐き出せば、米国がそれを回復するには数年単位の時間がかかる。
習近平国家主席は、2027年をひとつの目処に台湾併合へ動く可能性が指摘されてきた。米国が中東に足を取られ、補充に数年を要するこの局面は、習近平にとってはまたとない好機であり、日本と台湾にとっては最悪のタイミングだ。遠くの戦争がこれほどまでに日本の安全保障に直結しているという事実を、日本人は正面から認識しなければならない。
「イランに核を持たせるな」論の落とし穴
「イランはテロ支援国家であり、核兵器を持たせてはならない。北朝鮮のようにさせてはならない」——イラン攻撃を正当化する声は根強い。
だが、まさにそのために交渉していたのではなかったか。核施設の破壊を狙った空爆はすでに実行した。問題は、イランが大幅な譲歩に動くと報じられた直後に攻撃が行われ、本来なら交渉相手となり得たはずの指導部までも排除してしまったことだ。
これによって、核問題の解決という目的はかえって遠のいた。イスラエルにとっての真の目標がイランの体制転換である以上、こうした行動になるのは当然の帰結なのである。
ここで思い起こすべきは、1994年のビル・クリントン政権の判断である。
クリントン政権が検討したのは、あくまでも北朝鮮の核施設への限定的攻撃だったが、全面戦争に発展して膨大な犠牲者が出ることを恐れて断念し、ジミー・カーター元大統領の個人外交を突破口とする「米朝枠組み合意」に帰結した。
結局この合意は2002年に破られ、北朝鮮はいまや事実上の核保有国となっている。一見、外交の失敗(敗北)に見える結末だ。しかし、だからといって、クリントン以来、ジョージ・W・ブッシュ、オバマ、第一期のトランプ自身、そしてバイデンに至るまで、歴代米大統領が党派を超えて断り続けてきたネタニヤフによるイランへの全面攻撃要請を、準備不足のまま断行することが、より賢明な選択であると論ずることはできない。
クリントンが検討したのは核施設に絞った限定攻撃だったが、ネタニヤフが今回望んでいるのは明確に体制転換である。歴代大統領が一様に避けてきた選択を、もっとも安易に受け入れることが、北朝鮮の教訓を踏まえた賢明な判断だと、誰が言えるだろうか。
イランが60%に濃縮したウランを約440キロ保有していることは、IAEA(国際原子力機関)も認める公式情報だ。しかし米インテリジェンス・コミュニティは、核兵器の製造には至っておらず、ミサイルへの搭載を可能にする技術もないため、米国にとっての「差し迫った脅威(imminent threat)」ではないと結論していた。交渉の最中に奇襲を仕掛ける理由にはならない。トランプは、よほどの圧力を受けていたはずだ。

