年率268万のハイパーインフレ
そして2013年、チャベスの急死後にチャベス路線の継承を訴えたマドゥロが大統領に当選するが、マドゥロの能力を評価するものは誰もいなかったのだという。
そしてチャベス時代にすでにほころびが見えていた「21世紀の社会主義国家」は打開策が講じられることもなく、破滅に向かっていく。マドゥロには窮地を打開できるだけの力量がないだけでなく、その意志もなかったのである。
頼みの原油も価格が下落し、チャベス時代に国営化した石油会社は事故が多発し、生産量も低下。こうして原資がいよいよなくなっていくにもかかわらず、マドゥロは紙幣の発行を増やしてバラマキ政策を続けたため、インフレが加速。
恐ろしいことに、マドゥロ政権発足後、ハイパーインフレが進み、2019年には年率268万(!)にも達する事態になってしまったのだ。
統計によればGDPは往時の80%も減少したというから、国民が逃げ出すのも無理はないだろう。
こうした惨状を前にマドゥロが何をしたかと言えば、メディア統制だった。本書は〈(ベネズエラの)多くのメディアはマドゥロ政権の発足後も政権に都合の悪い報道は控え、ひたすら政府を礼賛しながら経済苦境はすべて米国の仕掛けた経済戦争のせいだとする大本営発表を垂れ流した〉と指摘する。これではアメリカもたまらないだろう。
ベネズエラは民主主義国家で選挙も実施されているが、2018年の選挙は野党連合が不参加、2024年の大統領選では実際には負けていたらしきマドゥロの勝利を選挙管理委員会が宣言。アメリカはこれを受けて「マドゥロ政権に正統性なし」と大統領として認めずに来ている。
だから今回のマドゥロ拘束も、本来許されていない「国家元首の拘束」には当たらない、と主張しているのだ。
動かないバイデン、そして拘束へ
こうした惨状のベネズエラに、アメリカはどう対応してきたのか。
トランプ第一次政権時には、ペンス副大統領が「マドゥロは独裁者であり、公的な権利を持っていない」とSNSで発信。トランプも「ベネズエラ国民の手に民主主義を取り戻すために介入している」と主張し、野党候補を支援していた。
著者の外山氏は当時、国境地帯のコロンビア側で祖国を脱したベネズエラ人が〈トランプ、私たちを見捨てないで!〉とのプラカードを掲げるのを見たという。
一方、2020年11月の大統領選で勝利したバイデンはトランプの対ベネズエラ外交を批判していたものの、自らは動くことはなかった、と本書は指摘する。
コロナウイルスの対策でも当然、有効な手を打てなかったマドゥロ政権下のベネズエラで、人々の絶望感は高まる一方だったろう。そして迎えたのが2026年1月3日だった。
こうした流れを見てみると、トランプの「突然」の「血迷った」行動に見えたマドゥロ拘束にも、相応の背景や年単位の経緯があることがわかる。もちろん、だからと言って「やっていい」わけではないのは言うまでもない。そしてトランプがベネズエラという国家を救えるのか、そのつもりがあるのかは現時点では「わからない」という他ないのである。

