「自動車王」も「英雄」も見事にはまった“陰謀論”|松崎いたる

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「単なるデタラメと違うのは、多くの人にとって重大な関心事が実際に起きており、その原因について、一見もっともらしい『説得力』のある説明がされることである」――あの偉人たちもはまってしまった危険な誘惑の世界。その原型をたどると……。


ヘンリー・フォードと「シオン賢者の議定書」

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どういうことか、すこし立ち入って説明しよう。

自動車の大量生産に成功し、アメリカ社会をモータリゼーション時代へと飛躍させた自動車王ヘンリー・フォード(1863~1947)は、1920年に『国際ユダヤ人(The International Jew)』という著作を発表した。これは、もともとフォードが発行していた新聞『ディアボーン・インディペンデント』の連載記事をまとめたもので、内容は『シオン賢者の議定書』という謎の多い文献を根拠に、ユダヤ人は「国際金融を操る陰謀的集団」などと主張し、ユダヤ人による世界征服に警鐘を鳴らすものとされた。

『シオン賢者の議定書』とは「シオン長者の議定書」とか「シオン議定書」、あるいは単に「プロトコル」と呼ばれる文書であるが、その成り立ちは次のように説明されていた。

19世紀末、ジャーリストのテオドール・ヘルツェル(1860~1904)は、「ユダヤ人は自分たちの国家を持つべきだ」と主張し、パレスチナの土地にユダヤ国家を再建するシオニズム運動を始めた。シオニズムとはパレスチナの中心都市エルサレムにある「シオンの丘」に帰るという意味だ。1897年にはスイスのバーゼルで第1回シオニズム会議が開催され、世界中からユダヤ人が集まった。議定書はこの第1回会議の極秘議事録であるとされ、24か条にわたって確認・決定事項が列挙されている。

議定書には、ユダヤ人が世界政府を樹立し、他民族を従属させることが最終目的であることが明記され、そのために各国の議会や政府を混乱させ、民主主義を形骸化させる政治的操作を行い、分裂や戦争を利用して支配を容易にするとも書かれている。また、ユダヤ人が国際金融を掌握し、紙幣・信用制度を独占することで、金融恐慌やインフレを人為的に起こして国家を弱体化させ、経済的に支配することにも言及されている。さらには、ユダヤ人が新聞、出版、教育を支配し、世論を操作するとともに、娯楽や芸術を通じて大衆を堕落させるというメディアと思想の支配などの計画が列挙されている。

これらは現在、Qアノンたちがディープステートによる陰謀だといっていることに重なる。ユダヤ陰謀論のリサイクル品がディープステートともいえるだろう。

『The International Jew』(americanjewisharchivesより)

「捏造された文書」に対するフォードの反論

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